原子力防災への取り組み -JCO事故をふまえて」      

原子力発電技術機構 防災センター所長 熊澤 昭雄 氏  代理発表者 別所 泰典 氏  代理発表者 片柳 大二郎 氏


はじめに

 東海村ウラン加工工場JCOで起きたような臨界事故の回避,あるいは,万一の場合における的確な対応を目的とし,現行の原子力安全規制の強化方法と原子力防災の課題について述べる。

JCO臨界事故

 1999年9月30日,茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」東海事業所で起きた臨界事故は,3名の作業員が重大な放射線被爆を受け,うち2名が死亡するというわが国最大の原子力災害事故であった。
 事故は,濃縮度の高いウラン溶液を製造する転換試験棟において,作業員が溶解したウランの粉末を規定に定められていないステンレス容器を用いて,制限値の約7倍(16.8kg)を沈殿槽に注入した結果発生した。

この事故では,30日午前10時35分から翌10月1日午前6時30分近くまで,およそ20時間臨界状態が続いた。対策処置として,沈殿槽外周のジャケットを流れる冷却水を抜き取り,ホウ酸水を注入する作業が行われ,ようやく臨界が収束した。事故への対応策としては,JCO周辺350m圏内の住民避難要請が東海村により指示され,また10km圏内の屋内退避勧告が茨城県よりなされた。


事故で顕在化した問題点

 JCO事故で顕在化した問題として,
 @ 原子力安全規制を抜本的に強化する必要性があること
 A 現行の原子力防災に問題があること

が挙げられる。前者については,核燃料加工施設における臨界阻止のための徹底した対応策の作成,義務化するだけでなく継続的なチェックをすることにより緊張感をもたせる,といった改善策がとられた。その具体的な内容は,以下の4点である。
 i) 加工業者に対し,定期検査制度を追加すること
 ii) 全事業に対し,事業者および従業者が守らなくてはいけない保安規制の遵守状況に関わる検査制度を創設すること
 iii) 原子力保安検査官を主要施設に配置すること
 iv) 全事業者に対し,従業員に完全確保改善提案制度を創設すること

また,後者については,まず初動対応の遅れが指摘されている。これは,状況把握が不十分であったこと,臨界事故に対する認識が不足していたこと,情報収集・分析の体制が不十分であったことが原因として挙げられる。また,事故対策本部が役割を果たさなかったことも重要な点である。これは,政府,現地,緊急技術助言組織の分担が不明確であったことが原因である。同時に,住民避難,屋内非難の指導助言を誰がするかという点が不明確であったともいえる。

これに関しては,当初の東海村村長の避難判断は適切であったが,防護措置をどの本部で決定すればいいのかについては不明確であった。さらに重要な点としては,専門的な支援体制が不十分であったことである。幸い,現地に専門機関(原研,JNC,原電)があったため,多数の専門家や装備を動員できたが,別の地ではこのような支援ができたかどうか,疑問が残った。最後に,報道への対応が不十分であったことも指摘されている。これに関しては,問い合わせ窓口が不明確であり,かつ東京からの情報発信・国−自治体間の情報伝達体制が不十分であったこと,また,国際的な情報発信の遅れと,誤った情報の流布なども生じた。


原子力防災に関する課題

 日本における災害対策は図1の通りであるが,JCO事故によりその脆弱さが露呈した。

                 図1:日本における従来の災害対策概要

 
この問題に対応するため,1999年12月に,原子力産業界全体の安全文化の普及・向上を目的に「ニュークリアセイフティーネットワーク」が設立された。

また,類似の事故を未然に防ぎ,かつ万一事故が生じた場合に備え,安全規制に関して,核燃料加工施設等における臨界阻止のための対応策などの徹底や国の継続的なチェック等を内容とする「核燃料物質,核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」の一部改正,さらに,原子力防災対策に関して,国,自治体の連携強化,原子力災害の特殊性に応じた国の緊急事対応体制の強化,原子力事業者の防災対策上の責務の明確化等を内容とする「原子力災害対策特別措置法」が国会に提出され,99年12月13日に成立した。実際の施行は2000年6月16日であり,内容は以下の4点に絞られている。

 また,災害対策の基本は災害対策基本法にあるが,JCO事故を受け対象災害の中に原子力災害が含まれるようになった。


防災訓練とその重要性

 原子力災害の特殊性について述べると,次の3つを挙げることができる。
 @ 五感に感じられない放射能汚染などについて迅速に広域的措置を講ずることが必要
 A 災害対策を実効的に行うための特別な訓練や装備,専門家の助言が必要
 B 災害の拡大防止のためには,事故の原因者であり,また発生した施設について熟知する事業者の責務の明確化が必要
 
人間は,急に事故や災害に遭遇しても,五感に感じられないものは何らかの確認をするまで信じることができないという性質を持っている。また,事故などを確認したとしても思考力が低下する,広範囲の情報に目をむけられなくなる,集団で間違った行動をとるなど,緊急事態に対応できない状況を作り出す恐れもある。これらを回避する意味では,防災訓練は非常に意味があることだといえる。
 防災訓練の内容としては,@緊急時の通信連絡訓練,A緊急時の環境放射線モニタリング訓練,B上記@,Aと周辺住民への広報活動を組み合せた訓練,C国の支援態勢を含めた総合訓練が重要であり,緊急時の適切な判断や正しい知識の取得などを目的として行われなければならない。


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