高レベル放射性廃棄物 −最終処分に向けた準備状況と課題
−みんなで考えよう 原子力発電のごみ−       

原子力環境整備促進・資金管理センター 理事 坪谷 隆夫 氏


高レベル放射性廃棄物とは

 近年,問題となっている高レベル放射性廃棄物は,核燃料を使用して発電した後に発生する放射性廃棄物のことである。3%濃縮ウラン1トン,すなわちウラン235が30kg,ウラン238が970kg含まれている燃料を用いて発電したとき,発電後の組成はウラン235が10kg,核分裂生成物が30kg,プルトニウムが10kg,ウラン238が950kgに変化する。この核分裂生成物30kgが高レベル放射性廃棄物として処分しなくてはならないものであり,この部分をどうするかが問題となっている。

 核燃料1トンにおいて,放射能の推移から高レベル放射性廃棄物の特徴を説明する。高レベル放射性廃棄物の放射能が最も高いのは,発電直後に取り出したときであり約1010GBqである。この後,原子炉から取り出されると急激に放射能が下がり,同時に温度も下がる。ある一定値まで温度が下がった後,高レベル放射性廃棄物はガラス固化体として処理される。核燃料1トンにつき,約500kgのガラス固化体ができあがる。そして放射能が元のウラン鉱石レベル(約103GBq)まで下がるには,約1万年を必要とし,ここまで待つというのが,高レベル放射性廃棄物処分の考え方である。

 日本人一人が1年間に発生させている廃棄物量では,一般廃棄物と産業廃棄物の合計が3900トンであり,放射性廃棄物は,104kgとなっている。放射性廃棄物の内訳は,低レベル放射性廃棄物が100kg,高レベル放射性廃棄物が4kgである。この値からは高レベル放射廃棄物の量は少ないといえる。また,これらは性質がよく知られており,安全に管理ができるという特徴も有する。
 以上をまとめると,高レベル放射性廃棄物の特徴として以下のものが挙げられる。

放射性廃棄物処理の技術的基礎

 再処理で発生する高レベル放射性廃棄物はガラスで固化しなければならず,これは世界各国で共通である。放射性物質の核種をガラスの原子構造に閉じ込めることで,放射性物質を物理的・化学的に安定な形にすることができる。これがガラス固化体の働きである。

 日本でガラス固化体の輸送に使う容器の一例がTN28VT型輸送容器である。ガンマ線遮へい材,中性子遮へい材などをそなえており,ガラス固化体28本を収容できる。郵送容器のみの重量は約98t,ガラス固化体28本を含む総重量は約112t,外径は約2.4m,長さは約6.6mである。また電力会社は,フランスに使用済み燃料の再処理を委託されており,六ヶ所村にはすでにガラス固化体がもどってきている。

 高レベル放射性廃棄物の処分オプションとしては,源流対策・制度的管理・永久隔離の3つの方法が考えられている。源流対策とは,分離核変換技術により放射性廃棄物の発生量を低減することである。しかし実際には,低減はできるが全ての廃棄物を完全に無くすことはできず,残りについては処分が必要になる。制度的管理とは,長期貯蔵管理を人間の監視によって行うことである。これは現状の技術で可能であり,管理責任も明確であるが,無期限に行うことは困難でありいずれ処分が必要になる。つまり,以上の二つの方法では,放射性廃棄物の処理能力が不十分であるため,永久隔離が必要になる。永久隔離の処分場所としては,宇宙空間・海洋底下・地層中・極地の氷床が考えられている。この中でも,世界各国のコンセンサスとなっているのが安定な地層中への処分であり,技術的にも可能である。ただ,この方法においても管理義務に倫理上の問題がある。


 地層中に埋設する仕組みを説明する。まず,地下深層に廃棄物を持ち込むため,その地盤が廃棄物の毒性が減るまで安定であることが条件となる。当然,地下深部では地下水が存在し,その地下水の流れにのって将来的に人類の生活環境に放射能が戻ってくるということをできるだけ遅らせなければならない。地下水対策として,まず地下水の性質を知ることが重要である。

 地層中の岩盤に廃棄物を処分するときには,ガラス固化体を鉄でオーバーパックし,さらにそのまわりを粘土で包みこむという多重バリアシステムを採用しているが,地下水の一般的な性質から,ガラスが地下水に溶けにくい,鉄は地上では錆びるが地下水に強く非常に安定である,粘土は水をとおさない,といったことがわかっている。これらのガラス,鉄,粘土といったものはすべて天然に存在しているので,千年万年といったオーダーで安定であるかどうかは過去を調べればその性質がわかる。

 安定な地層という観点から,地震列島・火山列島である日本では放射性廃棄物の処分ができないという考え方がある。日本の地層処分研究がスタートしたのが1976年になるが,これより数年前にプレートテクトニクスの考えが提示されて今は定着しており,この分野の研究が進展している。

 プレートテクトニクスによると,火山はプレートの沈降と関係している。日本列島に火山フロントと呼ばれるものがあり,東北地方の火山フロントより太平洋側には火山が存在しない。将来に地質構造が大きく変化するのであれば別だが,今後1万年から10万年程度はそのような大きな変動があるとは考えにくく,火山が太平洋側で急に発生することはないということになる。
 
 同じように地震についても,断層活動についてさまざまな視点で研究が進められている。地下深部になると,地上にくらべて地震の揺れが非常に少ないということが実証されており,地上に保管するよりも地下深部に保管した方が安定であることも明らかになっている。しかし,この種の研究は今後もより慎重に進めなければならないことは当然である。
 
 地表面と地下深部での地下水の違いを調べる研究に関しても,日本列島を使い事例研究が進められている。地表面では,雨水を起源とした水が空気中の酸素あるいは炭酸ガスを吸収し,酸化反応や炭酸塩鉱物の生成といった状況が生じる。しかし,雨水が地下に浸入すると,木の葉の腐食物などの還元性物質により雨水中酸素が急激に減少し,結果的にある震度においては弱アルカリ性,腐食電位としてはマイナス数百ミリボルトという極めて優れた還元性を示す。一部例外として,温泉など断層活動が発達し雨水がそのまま地下深くに浸透するような場合には,こういう現象は起きず処分場として適さなくなる。
 
 全体の地層処分システムの安全性,つまり,地下水によって放射性物質が戻ってくるかについては慎重に検討する必要があり,このために膨大なシナリオ検討が行われている。近年は,プレートテクトニクス理論の発展,コンピュータの性能の向上といった自然科学系の研究成果や産業技術発展に基づき,安全評価ができるようになっている。この地層処分全体の安全評価ができる国は世界数カ国しかなく,日本もその国の一つとなっている。
 
 
 数万年といった長い年月に渡る予測をしていく方法の1つとして,地層処分のシステムとの関係で天然現象で似たような現象を調べるというものがある。世界的に有名な天然原子炉ができていたと言われるオクロという鉱山がある。20億年前にウランの濃縮度が5%くらいまで高く,臨界が極めて長い間継続していたと考えられている。当然,核分裂生成物が安定物質として存在しており,世界各国でさまざまな視点から検討されている。
 
 例えば,希土類元素がほとんどこの部分から動いていないといった事例が報告されている。他の報告としては,廃棄物をうまく包み込む仕組みを構成している物質に関する研究がある。例えば,鉄については古代ローマの遺跡,ガラスについては富士山のガラス・ローマングラス(2000年前くらいのローマのガラス)の研究がある。緩衝材は粘土であるが,日本の村上という秋田県の粘土鉱床がある。ここには熱い花崗岩が過去に流入した痕跡があり,粘土が温度によってどのように変質するかという実験が天然にされた場所である。


最終処分制度の枠組み(安全規制を含む)

 技術だけで廃棄物問題を片付けることはできない。周囲の関係者に対し,確実に廃棄物対策が行われているということについて透明性を確保し,説明責任をはたさなければならない。こういう視点の基本となるのが,明確な制度を作成し廃棄物処分の政策を実行していくということである。廃棄物の処分をだれが責任を持ってするかということも大事であり,国の果たす役割も極めて大事である。

 法律の概要としては,1998年より総合エネルギー審議会での審議が開始をされた後,2000年5月「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」という高レベル放射性廃棄物に関する法律が成立し,同年6月に公布,9月に一部施行された。同年10月には廃棄物発生者に成り代わり処分を進めていく責任主体(原子力発電環境整備機構)が認可され発足した。同年11月にはこの法律がすべて施行された。また,この法律の中に原発を持つ会社が資金を拠出していくという制度があり,資金管理法人として原子力環境整備促進・資金管理センターが指定された。

 この制度の基本的なスキームを説明する。基本的な流れとして,通産大臣が基本方針を作り,これを閣議決定することになっている。処分計画を5年毎に策定することも閣議決定事項に含まれる。また,発電用原子炉設置者が拠出金を処分の実施する法人に納付し,この実施主体から拠出金が資金管理主体に預けられるという形になっている。膨大な金額であるため,確実に最終処分の実施のために実施主体が資金を使うかどうかを毎年通産大臣が認証する形式になっている。これらの情報はすべて公開される。

 また,2001年1月6日からの中央省庁の再編に基づき,日本の廃棄物行政も大きく変わる。従来,いくつかの役所に渡って廃棄物行政が行われていたが,原子力発電に関わる廃棄物はすべて経済産業省に統合される。安全規制の制度については実施主体が進めるスケジュールとリンクするという考え方になっている。実施主体が安全審査の申請をしたときに,安全委員会が初めて表に出てくるという構造になっている。日本においては2000年に安全規制の基本的な考え方が定められた。今後のスケジュールとしては,安全審査の基本指針を定め,さらに具体的な指針,技術基準なども定めて安全審査に備えていくことになる。


これからの課題

 高レベル放射性廃棄物に特有な課題として,放射線問題がある。また,時間軸という問題もある。数万年というのは我々の今までの経験をこえる時間尺度である。2万年程度で廃棄物の放射能は極めて弱くなるので,この程度の期間がで廃棄物問題の議論の中心となる。さらに,地層処分の確実性,コンピュータによる長期安全性解析は確実に安全なのだろうか,という問題もある。

 具体的に制度的管理を信用できる期間はどれくらいか,工学的建造物(人口バリア)ははどのくらいもつのか,深部地質環境(天然バリア)の安定地層の確実性はどのくらいまでなのか,といった確実性に関する問題がある。さらに,地下深部の利用という問題もある。法律では300m以深と定められており,実際は数100mより深い岩盤を使用するため,人類が今まで経験したことのない深いところに大規模な地下利用をするということになるからである。


 今年2000年の状況は社会のニーズもそれ程高くない。なぜならば,情報が正確に社会に伝わってないためである。技術に関してもようやく基盤的なものが整い,制度の方も最小限のものができたところである。このような状況により社会が積極的にこの問題の答えを出すのに至っていない。したがって,今後必要とされるのは,国民各層のニーズを発掘していく努力である。

 様々なニーズが現れると,廃棄物処分という大きなプロジェクトもそのニーズに答えようとして体力がついてくる。このときに社会のニーズに答えるためには,情報の公開・市民の参加・国の役割が必要になる。また,今のうちに心の準備や科学的な考察をする必要がある。このときに念頭におかなければならないのが,世代間の公平である。非常に長い時間にわたっての継続的なプロジェクトの推進が必要であり,将来世代の安全や環境の保全を十分踏まえないと問題が出てくることになる。今後は,このようなあらゆる状況や問題を想定して,この問題に対応する必要があると思われる。


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