ポスト石油化学に向けてのバイオマス資源の可能性

京都大学大学院エネルギー科学研究科エネルギー社会・環境科学専攻  教授 坂 志朗 氏


はじめに

 20世紀のエネルギー源を振り返ると,化石燃料の時代であったといえる。しかし,化石燃料には資源枯渇や地球環境への負荷という問題が不可避的に存在している。これらの問題を解決するエネルギー源が21世紀のエネルギー源であり,バイオマスエネルギーがその具体的な解決案と考える。特に,未利用バイオマスや廃バイオマスの量は非常に多く,これらを有効利用することで効率的なエネルギー利用が可能になるといえる。ここでは,バイオマスからのエネルギー抽出方法について説明を行う。

バイオマスの利用法

 バイオマスを化石資源の代替資源として利用する方法の概念図を図1に示す。バイオマスをエネルギー源として使う方法の一つに,グルコースからのエタノール変換がある。具体的にはサトウキビやトウモロコシからエタノールを生産する事も可能であり,それぞれブラジルやアメリカでは実用化されている。エタノール燃料は,石油資源の枯渇を想定した未来燃料と考えられているが,実際には第二次大戦以前からヨーロッパ,アメリカ,ブラジル,日本などでガソリンに混合して使われていた。その後,ガソリンが安く入手できるようになり,燃料として用いられる機会は減少したが,1973年の第一次石油危機以降,石油価格の高騰とともに再び燃料として注目されるようになった。

図1 バイオマス資源の利用法

                     図1 バイオマス資源の利用法

 しかし,このエタノール生産は澱粉や廃糖蜜を主原料としているため,食糧問題が緊迫してくる21世紀のエネルギー源としてはあまり期待できない。ここで注目すべきは,地球上のバイオマスの中で最も大量に存在しているセルロースである。セルロースは,おが屑,間伐材などの林産廃棄物,OA紙や新聞紙などの産業廃棄物に大量に含まれているが,分子間および分子内で水素結合し結晶構造を作っているため分解することが難しい。このような理由から,セルロースは未利用のまま廃棄されているのが現状であるが,本研究ではセルロースを有用ケミカルスやエネルギー源に変換して利用することを提案する。その理由は,グルコースをエタノールやヒドロキシメチルフルフラールに変換することで,ペトロケミカルス(化石資源)から合成される多くの有用物質や合成高分子への変換が可能になるためである。この場合,難しい問題とされているのがセルロースからグルコースへの変換であるが,本研究では超臨界水による瞬間的加水分解に注目した。


超臨界水とは

 臨界水を説明する前に,超臨界流体について説明する。図2に示すように,物質は温度と圧力条件により気体,液体,固体の状態で存在する。

図2 純物質の温度・圧力線図

         図2 純物質の温度・圧力線図

超臨界流体とは,図中の斜線部分で示された領域の物質であり,臨界温度,臨界圧力を越えた物質である。つまり,圧力を高くしても液化しない非凝縮性の気体である。超臨界流体の特徴は表1に示す通りであるが,簡単には,気体分子と同等の大きな分子運動エネルギーを有し,かつ液体に匹敵する高い分子密度を備えた高活性な流体であると説明できる。このような特徴を有することから,反応速度が大幅に増大することが期待される。水を超臨界状態にするには,温度を374℃以上,圧力を22.1Mpa以上にしなければならないが,この条件を満たす装置を作製し研究を行った。

表1:超臨界流体および液体の物性値

物性 気体 超臨界流体 液体
密度 [kg/m3] 0.6〜1.0 200〜900 1000
粘度 [Ps・s] 10-5 10-5〜10-4 10-3
拡散係数 [m2/s] 10-5 10-7〜10-6 10-9
熱伝導度 [W/mK] 10-3 10-3〜10-1 10-1

超臨界水を利用したエネルギー抽出法

 超臨界水を作る装置はバッチ型のものであり,熱源にはスズ浴槽を,反応停止には水浴槽を用いている。この装置を用いて,セルロースI型,セルロースII型,澱粉を超臨界水処理した後の,液体クロマトグラフィー結果を図3に示す。なお,実験時間は10秒であった。 図より,難分解性天然高分子であるセルロースが,超臨界水処理を10秒行うと,澱粉同様に効果的にグルコースに変換されるほか,その2,3量体であるセロビオース,セロトリオース,その分解物であるレボグルコサンに変換されることが分かる。これは,超臨界水処理により瞬時にしてセルロースが低分子の化合物に変換されることを意味しており,エネルギーバランスの点からも非常に魅力的である。

図3:セルロースT型,セルロースU型および澱粉を超臨界水処理した後の液体クロマトグラフィー結果

図3:セルロースT型,セルロースU型および澱粉を超臨界水処理した後の液体クロマトグラフィー結果


超臨界メタノールによる植物油のバイオディーゼル燃料への変換

 植物油およびその廃油をバイオディーゼル燃料に変換する研究は,世界各地で行われ実用化されている。例えば,京都市では従来ごみとして排出していた廃食用油をバイオディーゼル燃料に転換し,約220台のごみ収集車でこの燃料を使用している。 バイオディーゼル燃料(モノメチルエステル化物)は,以下の反応式に示すように植物油のトリグリセライドとメタノールを,塩基触媒を使ってエステル交換することによって得られる。
 この燃料は,工業的には,常圧下50〜60℃で5〜6時間かけて行なわれるが,超臨界メタノールを用いると,無触媒かつ2分程度の反応時間でモノメチルエステルに変換できる。 さらに,この反応は以下の3点において優れていると考える。

  1. 無触媒下のものであるため,従来ではアルカリ石鹸として廃棄されていた植物油中の遊離の脂肪酸は,超臨界メタノールとの脱水反応によりメチルエステル化され,バイオディーゼル燃料に組み込まれて収率を向上させる。
  2. 無触媒であるため,反応後は分離・精製が容易である。そのため,省エネルギーで廃棄物資源が有効に利用される。
  3. 植物油は自然の循環系に汲み込まれているので,地球上の炭素バランスを崩すことがなく二酸化炭素の削減に大きな効果を有している。


まとめ

 今後,エネルギー,資源問題を解決するために,水やメタノールのみならず他の溶媒による超臨界流体を用いてバイオマスを有用物質に化学変換したり,エネルギー化をする研究に大きな期待が寄せられると考える。特に,水は地球上に存在する自然界で唯一の溶媒であり,これを反応溶媒として使えることは,地球環境保全上非常に意義深いものと考える。


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