「ITのユニバーサルデザイン」


株式会社 ユーディット  関根 千佳 氏


米国では、町のあちらこちらで車椅子の人をみる。また、バスの乗降やショッピングモールなどでも、障害者などが健常者と同じように普通に過ごしている。しかし、日本では、町中で車椅子の人をみることが少ない。これは、日本に障害者が少ないというわけではなく、日本社会では障害者が自由に出歩くことができず、萎縮してしまっているためである。


例えば、電車に乗る際も自力では階段を上り下りや電車に乗降できない。その理由は、今まで、さまざまなものは若い人向けに作られており、都会に住む20代〜30代の生活実感のないデザイナーを中心にもの作りが進められていたからである。

しかし、21世紀になり日本の人口の4分の1が高齢者となる現在では、使う人と作る人とがかけ離れてしまっていて、高齢者にとって使いにくいデザインのものが多数存在する。高齢者は、日本の富の50%を占めており、またニーズさえあればパソコンなど新しいものでも使おうとする。そこで、ものを作る際、誰でも使えるようにユニバーサルデザインを導入することで、高齢者などでも簡単に使えるようにすることが大切である。


ユニバーサルデザインとは、障害者・高齢者を含むさまざまな人が使えるように最初からデザインに配慮することである。また、既存のものに障害者・高齢者が使いやすく改良するバリアフリーがあり、双方とも必要なことであるが、バリアフリーでは特別な機器を使用することがあり、本人にとってあまり嬉しくない状況にもなる。



また、障害者の支援技術として開発されたものの中には、聴覚障害者の音声伝導を目的とした電話や、視覚障害者の墨字入力のためのタイプライター、片腕を失った人でも煙草に点火できるようにしたライター、頚髄損傷者のワープロとして音声入力があり、障害者を支援しようとする工夫が技術革新になることがある。ユニバーサルデザインの原則として、ノースカロライナ大学のRon Mace氏は、

  1. 誰にでも公平に利用できること
  2. 使う上で自由度が高いこと
  3. 使い方が簡単ですぐわかること
  4. 必要な情報がすぐに理解できること
  5. うっかりミスや危険につながらないデザインであること
  6. 無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
  7. アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること

の7つを挙げている。これらは、特に高齢者・障害者向けの特別な事柄は含まれておらず、誰でもごく当たり前のようにデザインする際に考慮されているはずの事柄である。



最近では、ユニバーサルデザインがさまざま場面で導入されている。例えば、周りの景観を損なわないように作られたスロープが設置されたり、高さの違う水呑場を設けたりしたところがある。

また、ヤマハの電動アシスト自転車PASはユニバーサルデザインの最も成功した例で、高齢者のニーズを把握して開発したものの、宣伝やデザインを若い女性をターゲットにしてかっこよさをアピールしたため、あらゆる世代の人が気軽に使えるようになり、また高齢者などが利用していても、かっこよくコンプレックスを持たないで使える。



放送メディア分野においては、米国では、ほとんどのテレビに文字放送のためのデコーダーが内蔵されており、CC(=Closed Caption)ボタンを押すことで音声と字幕を切り替えられるようになっている。テレビ番組も文字放送を義務付けられていおり、障害者のみならず、高齢者・学齢期の子供、旅行者など母語が英語以外の人にも有益である。また、文字情報によってデジタルアーカイブとしての価値が高まり、検索などがしやすくなっている。日本では、米国に比べると進んでいないものの、音声認識をもちいた自動文字放送を試作している。

空間のユニバーサルデザインとして、トーキングサイン社のトーキングサインなどがある。これは、駅の構内などで視覚障害者の歩行案内システムで、自分の必要な情報を瞬時に必要な形式で得られるシステムである。サンフランシスコのCivic Center全体で導入されている。


HC(=House of Commons)機器としてのユニバーサルデザインに必要なのは、障害者向けでないInvisibleなデザインであることや、分かりやすいこと、感覚器官の補完または延長であることであり代行するものでないことである。この変化の中で、ITが進むにつれて人間が判断をする機会が減ることは事実であるが、本来忘れていた人の名前の記憶を補完するなどで有用である。人間がやりたいことを、そっと支援してくれるデザインを行う必要である。

米国では、幼児期からITや支援技術を使った教育が盛んに行われ、統合教育の中でも支援技術が多用されている。米国の障害者支援政策は、障害者を保護するより技術を得て自立し、税金から補助を受けるのではなく、税金を納税する側に転換させることである。これは、障害者に対する教育など初期コストがかかるものの長い目で見れば、利益が大きいと判断され実行されている。



また、1998年にリハビリテーション法が修正され508条が制定された。これは、2001年6月21日以降、邦政府が購入するIT機器は障害者にアクセシブルでなければならず、罰則規定を設け強制力を持たせた。また、適応範囲も大きく、その部門に障害者が1人もいなくても実施しなければならず、また全ての機器をしなければならないことを定めている。この法律の背景には、連邦政府職員のうち176,000人が何らかの障害を持つ職員であることが挙げられる。

ところが、日本では高齢者・障害者に配慮されだしたのは最近のことであり、障害者が高等教育を受けることが難しい。また、IT産業では障害をもつユーザが少ない。それに加えて、企業や官公庁に障害をもつ社員を採用する機会が少なく、そのため、アクセシビリティの重要性を企業が理解しにくく、もの作りにユニバーサルデザインを導入することが難しい状況である。



ITは、QOL(=Quality of Life)を高める道具になりうるが、その道具をどのように使うかは人それぞれ違う。その道具を作る科学者は、本当に人を幸福にすることができるか考えながら作っていって欲しい。高齢者・障害者などを含めた共生社会とは「みんな違ってみんないい」という言葉で表させると考える。



ホームシンビオについて活動報告トピック
リンク事務局サイトマップ