「共生システム論の目指すものとは?」


京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻 教授 片井 修 先生


過去何度かのブームを経て、「共生」という言葉はごくありふれたものとなってしまった。今改めて、この言葉を手がかりに何を目指すべきなのか?について、最近の話題を紹介しながら、社会や自然との関わり合いのあり方まで含めて様々な視点から考えてみたい。

 京都大学の基本理念: 京都大学の基本理念の策定する段階の最初の案としては、「人類社会」という文言を入れるはずだったが、「地球社会」と変更された。同様に「持続的発展」を「調和ある共存」と変更するなど、京都大学には古くから「人間だけではなく、他の生物・無生物との共生」を重んじる気風がある。

 パーマカルチャー、自然農法:オーストラリアにおいて「パーマカルチャー」に基づく農法が、実際の体験を交えて紹介された。「パーマカルチャー」の発想は、いろいろなものを複雑に絡ませて、システムを出来るだけ複雑にする、というものである。生物の持つ様々な機能がすべて生かされるように、空間的な重層化(高い木と低い木を重ね合わせる、など)と時間の重層化(多種類の作物を同時に育てる、など)を行うと、ほとんど人手がかからない農業が可能になる。この発想を極限まで突き詰めたのが、福岡正信の「自然農法」である。この農法は、耕さない、肥料をやらない、除草をしない無為の農法であるが、従来の農法に比べ収量は変わらない。「生態系全体としては善悪、目的、価値がない」という考えに基づいており、従って害虫・益虫の区別などはなくなる。「自然農法」を生業としての農業として改良したのが、川口由一の「自然農」であり、関西においては徐々に普及しつつある。

 エコロジカル・デザイン:自然のプロセスと統合する(共生する)ことにより、環境への破壊的な影響を最小化するすべてのデザイン形態、のことをいう。5つの原則を有しており、それらに基づいて設計された家屋などの写真が紹介された。

 ディープ・エコロジー運動:人間はそれぞれ違った哲学、宗教を持ち、生き方の根本原理は異なっているが、ある部分においては全員が共有できる原則が存在するとし、これをプラットフォーム原則と呼ぶ。ホーリスティックな世界観と生命圏平等主義を基本とし、人間は個として独立しているのではなく、過去から未来、宇宙の果てまでの、時間と空間の限界のない、関係性の中における結節点として存在する、としている。

 スローライフ、スローフード:これはファストフードのアンチテーゼとしてだけでなく、地域の文化、食材、生態系をより充実させようという運動である。また、速度の逆数=時間//距離=じっくり度、と定義して「反効率の発想」を提案している。

 人間は生きていく上で自分の中での様々なスケールの時間軸を統合して生きている。しかし、現代人は、「産業」に時間軸を摺り合わせているために、「今」という時間が希薄になり、「時間の空洞化」が起こっている。「共生」という観点からは、この時間軸を、「生命」や「文化」の時間軸に摺り合わせていく必要があるのではないか。


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