「韓国における原子力発電と規則―安全に関する現状と取り組み」

 韓国原子力安全技術院 院長 Dr. Young-Soo Eun (殷榮洙博士)


韓国原子力安全技術院(Korea Institute of Nuclear Safety: KINS)のYoung Soo Eun院長は韓国安全委員会委員を務められるとともに、IAEAのCSS(安全基準委員会)のメンバーであり、また安全条約に関する国別会合では議長を務められるなど国際的にも広く活躍されている。

1.韓国における原子力発電の概要
 1978年のKori 1号機の運転開始以来、韓国では原子力発電所が着実に建設され、現在18基の原子力発電所が運転されている。これらの18基のうち14基は加圧水型軽水炉で、残りの4基は加圧水型重水炉(CANDU炉)である。18基の合計出力は15,716MWeであり、2003年に於いては発電設備容量に占める原子力発電の割合は29.2%、総発電電力量に占める原子力発電の割合は40%以上を占めている。現在KSNP+(KSNP改良型)やAPR1400等8基が建設中であり、さらに2基が計画中である。2015年には合計28基が商業運転の予定である。

2.韓国の原子力安全規制体制と課題
 原子力発電所や研究炉などの原子力施設の認可を始めとする原子力安全規制の責任を担うのが科学技術省であり、KINSは科学技術省を技術的に支援する専門機関である。また、原子力安全委員会は原子力安全政策の意思決定を行う機関である。
  韓国の原子力発電所は、国産化が進むまでアメリカ(Westinghouse)、カナダ(AECL)、フランス(Framatome)三国の企業とのターンキー契約で建設されたので、設計の異なる三種類の原子力発電所に合わせた規制を適用する必要があり、規制当局は規制活動に多大な労力を要していた。そのため現在は、統合化された規制体系を整備して適用している。また、新規に建設される発電所は新しい設計を導入しているため、今後は新設計に対応した規制が求められるが統合化した規制体系に組み込む必要がある。

3.韓国の原子力発電所の現在の運転成績、稼動状況
 韓国原子力発電所の2003年の設備利用率は93.4%であり、年々徐々に増加してきている。他方、原子炉の停止については1978年のKori1号機の運転開始以来、総計428回発生している。2003年には、21回の計画外停止を含む23回の原子炉緊急停止が報告されている。原子炉1基当たりの平均緊急停止回数は、2003年には1.17回/(炉・年)であり、徐々に減少しているが、日本やアメリカと比較すると依然として高い。原子炉停止の理由の多くは二次系まわりのため、規制当局は二次系の品質管理に重点を置いている。しかし、一次系は科学技術省が、二次系は産業資源省が規制を担当しているため、規制効率を上げるにはこれを統合することが望ましい。昨年のトピックスとして2003年9月の台風Maemiによって釜山近郊の5基の原子炉が緊急停止した。ただし原因は原子炉にはなく、台風による高波で送電系統にトラブルが発生したものである。
  原子炉で起こるこうした事象を世界中で同じ基準で見るという観点から作られた国際原子力事象評価尺度INESを韓国は1993年3月に導入した。INESの導入以来、総計205件の事象が報告されそれぞれの事象のレベルが評価されたが、205件の内訳は、レベル2が1回、レベル1が5回、レベル0が199回で、殆どがレベル0である。なお、レベル2の事象は1994年にWolsong1号機で発生したもので、安全文化の欠如が見られたことから、レベルが1つ格上げされてレベル2とされた。

4.韓国の原子力安全規制の最近のトピックス

(1) 原子力安全規制情報の公開
 韓国が独自に開発した原子力発電所の安全性能レベルを示す安全性能因子(SPI)や既存の原子力事象評価データベース(NEED)のウェブサイトを改善し、運転者と住民の双方に使いやすいものにするため、運転性能情報システム(OPIS)が開発された。OPISは、国内外の原子力発電所の運転に関する情報を系統的に収集して一般に公開するウェブサイトデータベースであり、運転者に対しては、経験的データの蓄積によるフィードバック的学習の基礎となり、住民に対しては、原子力発電所の運転に関連する情報の適切で率直な公開によって信頼醸成の一助となっている。
(2) 原子力安全憲章
 2001韓国が独自に開発した原子力発電所の安全性能レベルを示す安全性能因子(SPI)や既存の原子力事象評価データベース(NEED)のウェブサイトを改善し、運転者と住民の双方に使いやすいものにするため、運転性能情報システム(OPIS)が開発された。OPISは、国内外の原子力発電所の運転に関する情報を系統的に収集して一般に公開するウェブサイトデータベースであり、運転者に対しては、経験的データの蓄積によるフィードバック的学習の基礎となり、住民に対しては、原子力発電所の運転に関連する情報の適切で率直な公開によって信頼醸成の一助となっている。
(3) 住民との関係
 こうした活動にも関わらず最近の韓国では、原子力への受容性は低くなる傾向にある。その1例として放射性廃棄物処分地の選定では、候補地であった韓国の南西海岸にあるWidoの住民は放射性廃棄物処分場の立地に賛成したが、Widoの属する郡部のBuanの住民が反対し、処分地誘致の是非を問う住民投票が行われた。住民投票には法的拘束力はないが、反対が極めて多数を占めるという結果になった。暴力行為を含む激しい反対運動も発生している。韓国ではこのように放射性廃棄物処分地の選定には既に18年間を費やしてきたが、いまだに決定には至っていない。
(4) 信頼向上のための社会心理学的手法の導入
 原子力に対する住民の信頼を向上させるため、賛成/反対の立場を入れ替えてロールプレイングを行うsocio-dramaという社会心理学的手法を試みている。socio-dramaは2003年に3回開催され、国際原子力機関の職員も招かれた。

5.韓国における原子力発電の今後
 
 韓国のエネルギー供給計画では原子力発電が今後も重要な位置を占めることは間違いない。着実な原子力発電の利用のためには原子力安全に対する住民の信頼が不可欠で、これには原子力安全に関する情報の透明性、公開性を通じて達成されると考えている。

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