シンビオ社会研究会 原子力WEB教材


教材(1)/2.技術安全システムの体系

_ 教材(1)社会の安心を希求する技術安全システム構成の道

~Safety-critical system の学習する組織による安全文化醸成~

_ 2.技術安全システムの体系

 最近、社会のあらゆる面で安全と安心の確保が謳われるようになってきました。安全と安心はどのように違うのでしょうか。さしずめ「安全は人々が求めるもの,安心は人々が願うもの」と考えて話を進めます。そこで「安全」とは「様々な局面での危険を回避またはできるだけ小さくする営み」と定義して,事故や災害発生時の社会的影響の大きい科学技術システムの「システム安全管理」の全体を時間軸と空間軸とで考察し,図1のようにまとめました.

fig1.png
図1 システム安全管理の時空表現

 図1の左右には,いわゆる事故の大きさを区別する「事故尺度」を示しています.図の下から上方に事故のレベルが大きくなって、事故の影響の及ぶ範囲が空間的に広がっていきます.図1の右側に示したカテゴリⅠからⅣまでの4分類は,一般にミルスタンダードと呼ばれている米国軍事規格での事故分類法です.カテゴリⅠは運転が継続できる段階です.カテゴリⅡは局所的な被害が生じ,運転を中断しなければならない段階,カテゴリⅢはその段階を越えたクリテイカルな状況,最後のカテゴリⅣがプラントが停止してカタストロフィックになる段階です.一方,図1の左側には,INESといわれる原子力施設でのトラブルのレベルを示す国際原子力事故評価尺度を示しました.INESでは,正常ではないが安全上とくに重要ではない事象を0,逸脱を1,そして異常事象では程度に応じて2,3とし,そして4から事故になって非常に深刻な事故の7に区別しています.わが国原子力施設ではINES尺度の0,すなわち安全上重要でない事象であってもそれが検知されたときはプラントを直ちに停止し,原因を解明し,再発防止対策を打ってから再起動されています.

 図1の中央部には,システム安全管理行動の時空表現を,"状態"対"対応行動"のマトリクスとして表現しました.縦方向は上述のように事故尺度の発展を示し,一方,横方向は,プロセスの異常拡大→対応処置→対応の結果,のように3段階でイベントの時間経過を示しています.全体として,最下部が正常な運転状態です。本来なにもなければこの部分だけで済みますが,ヒューマンエラー,機械部品の故障,地震等の外部要因,バックアップ機器のトラブル等の要因が起因となって初期異常が勃発します.初期異常が発生してもそれを検知し,適切な対応をとればプラントは程なく正常運転に復帰できます.しかし,検知ないし対応処置に失敗すれば異常が拡大していきます.つまり各段階で検知と対応の2段構えで防護されているがその防護が効かなければ,上方の縦方向に事故の大きさが発展していく.図1では,事故の拡大波及はプラント内を越えて周辺環境にまで影響が及ぶことがありうることを考えて,緊急対応,さらには大災害の危機管理に至るまで発展する可能性をロジックツリーとして示しています.

 システム安全管理とは,図1のマトリクス中で,とくに対応処置のカラムのところで最下断の部分(設計,運転,検査,保修の段階で異常発生防止)から最上段の危機管理に至るまで,検知・判断・対応・処理の防御システムを重層的に組み込んで常に実効あらしめるように整備するものと理解できます.

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_ コメント


  • これはよいですね -- 伊藤京子? 2009-04-30 (木) 16:59:42
 
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Last-modified: 2009-06-16 (火) 18:39:24 (5600d)