教材(1)/3.安全とリスク,リスク概念に基づく技術安全システムの実践
_ 教材(1)社会の安心を希求する技術安全システム構成の道
~Safety-critical system の学習する組織による安全文化醸成~
_ 3.安全とリスク,リスク概念に基づく技術安全システムの実践
システム安全管理は,図1の縦方向の各局面で,危険を回避またはできるだけ小さくするためのものですが,できるだけ危険を回避する,小さくするといっても,どれだけ小さくすれば良いのでしょうか?つまり安全性あるいはその反語の危険性の度合いを示す尺度が必要になります。そこで最近、欧米流のリスクという用語が学会で登場するようになりました.それだけでなく確率論的安全評価と呼ばれる方法で、リスクを確率値として算出したり、それを特定の施設の設計や運転許可のための設計目標値の目安に使おうという動きがでてきました。しかし学会では専門家たちの間で安全,危険,リスクという用語自体に百論続出の有様です.ここでは,
①安全とリスクは別の概念である,
②安全には実体がなく,安全を測るという考え方がないし測れない,
③リスクのみが測れる,という前提で,「システム安全管理=リスクの評価に基づいてリスクを管理する」として説明します.
そこでのリスクとリスク評価の意味と定義を述べます.リスクは定量的な未来予測の概念で,リスク評価には,
①何が悪い方向になっていくのか,
②どの程度厳しいのか,
③その可能性はどの程度なのか,という3つの要素があります.そして,リスクの定量化では,
①悪くなっていくもののもたらす影響度,
②それが起こりうる確率,の2つの要素があります.
システムの安全管理の実践活動をリスク概念に基づいて構築するには,最終的にリスクは減らす方向に制御しなければなりません.そのためには,
①リスク評価,
②リスク管理,
③リスクコミュニケーションの3つの活動要素が必要であり,リスクを適切に制御するには,
④リスクの制御方針を明確にする必要があります.
以上の4要素のリスク制御を志向するシステム安全管理の概念を図2に示し,その要点を以下にまとめます.
① リスク方針―リスクを制御するに当たって,制御すべきリスクが何かを決めなければならない.
② リスク評価―そのリスクがどの程度であるかを知るためにリスク評価が必要である.
③ リスク管理―リスクの大きさが判ったらそのリスクを(低減する等)適正化する管理が必要である.
④ リスクコミュニケーションーリスクを受ける可能性のある第三者にリスクを受容してもらう必要があるので,対象となる利害関係者とのリスクコミュニケーションが必要である.
⑤ 以上の4要素を総合的に運用することがリスク制御である.