プルサーマルとは和製英語のようです。プルトニウムの入った核燃料(正確にはUO2/PuO2混合酸化物核燃料)を熱中性子炉(サーマルリアクター)で用いることから作られた造語です。実際には現行のPWRとBWRという軽水炉形原子力発電所で原子炉の形状を変えないで使用することに限定しています。
わが国の原子力政策では、微濃縮した酸化ウラン核燃料を軽水炉で使用し、原子力発電しますが、軽水炉で使用済みの核燃料には、核燃料として再利用できるウランとプルトニウムが含まれるので、これらを再処理工場で取り出して再び原子力発電に利用することとしています。これを核燃料サイクルといいます。本来、再処理工場で取り出すプルトニウムは高速炉で利用するほうが効率的で天然ウラン資源の有効利用にもなるのですが、現状では高速炉もんじゅも稼動していないし、今後の高速炉建設も大分先のこと(2025年以降?)となり、再処理で取り出したプルトニウムを現行の軽水炉形発電所で使用するプルサーマルの導入がわが国では1990年代から急浮上してきました。
プルサーマル自体は海外の主要原子力国では1970年代から実績があり、世界的には実証済みの技術ではあるのですが、わが国では1990年代から電力事業がその導入を進めようとしたため、1990年代になって顕著になってきたわが国原子力の様々なトラブル発生等に引きづられて地元の受け入れがなかなかスムーズに行かない事態となりました。
本稿は、立地地域でのプルサーマル受け入れに関する意思決定への公衆参加の実例である「プルトニウム懇談会」への助言者としての参加(A)、立地地域ではない隣接自治体での市民団体からのプルサーマル反対の陳情の取り扱いに対する市議会研修会への「プルサーマル賛成派」講師としての参加(B)という2つの経験をもとに資料をまとめたものです。
掲題の「プルサーマルの必要性と安全性について」はとくにBでは中国電力株式会社から参考資料作成に多大な協力を得ました。内容については参考資料に詳しいので、AとBにおいて、寄せられた主な厳しい質問や意見を以下に示すに留めます。なお当方の答えは記載していません。つまり答えにくかったものです。皆さんで是非回答を考えていただきたく存じます。
質問1: 原子力安全委員会が平成7年に決定したプルサーマル運転の許可条件の裏づけになった実験データの存在を説明して欲しい。裏付ける実験データはないのでは? (注:2005年にIAEAが発行しているMOX燃料の原子炉利用に関するガイドブックを見る限り、わが国のプルサーマル許可条件は実績のある海外の認可条件に比してかなり保守的に設定されているようです。)
質問2: 資源エネルギー庁の提示している資料でのプルサーマルによるウラン資源節約効果の計算根拠を説明して欲しい。(注:資源エネルギー庁のデータ根拠は不明ですが、参考資料には筆者が中国電力の方と一緒に推測した根拠は記載してあります。)
質問3: 電力会社のプルトニウム保有量からみれば関電、東電が際立っているから両社から率先してプルサーマルをしないと効果がないのではないか?
質問4: プルサーマルを受け入れる自治体には補助金が国から支給されることの妥当性について
質問5: プルサーマル燃料はさらに再処理するのか?また何度繰り返すのか?どこでするのか?
質問6: 高速炉を早く完成しないといくらプルサーマルを進めてもプルトニウムがだぶつくのではないか?
質問7: 再処理した後の高レベル放射性廃棄物の処分が決まっていないと原子力発電のごみ対策は完結しないのでないか?
これらの公衆参加の議論に参加しての印象ですが、地方の立地地域の公衆も原子力政策の動向や原子力技術に対する知識が増えてきている。つまり原子力情報の社会への流布が進み、質問のレベルも深くなっていることです。もちろん原子力反対派の専門家たちの啓蒙の貢献がおおきいようでその啓蒙によって、これまで国が中央で進めてきた原子力政策のしがらみや矛盾といったことがらも伝わっているようです。こういった状況を考えると、より情報を公開して一緒に問題点を共に考えるようにするほうが事態の進展には良いように考えましたが、皆さんはどのようにお考えでしょうか?