シンビオ社会研究会 原子力WEB教材


教材(2)/3.リスクアセスメントとは のバックアップ(No.69)


_ 教材(2)リスクとリスクアセスメントの基本的な考え方

 

_ 3.リスクアセスメントとは

_ 3.1 リスクの要因分析

リスクアセスメントは,機械システムでの危険発生の未然防止を目標とする安全設計のための手段である.

危険発生の未然防止は,どのようなリスクがあるかを徹底的に調査することが出発点である.それにはリスクの定義式から,災害に至るシナリオを洩れなく抽出することが重要 である.そのためには先ず,

①評価しようとしている重篤な事象の原因となりうる起因事象(initiating events)を網羅的に検討することが求められ,

ついで

②災害に到りうるシナリオ調査の網羅性が問われる .

実際上,リスク評価で上記の①②での抜け落ちが指摘される場合も多い.現実問題のリスク評価では網羅性を達成するため,マンパワーを要する.そこではリスクの要因分析に,FMEAやHAZOP のような作業用の分析表を用いてブレインストーミングが行われる.

_ 3.2 リスク算出の基としての事故モデル

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図6 想定外の外乱を事故の原因と見る考え方
 
 
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図7 ドミノ倒しの事故モデル
 
 
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図8 シャープエンドとブラントエンドの事故モデル
 
 

事故の見方とモデル化には様々な考え方がある.リスク分析の一環として,ハザードから災害に到る様々なシナリオを考えだす方法を,「事故のモデル」と称する.その事故シナリオを考え出すモデルの3例を以下に紹介する.

①想定外の外乱を原因と見る考え方を図6に示す.通常は,期待どおりの正常シナリオの順にものごとが進む.しかし事故とは,そのいずれかのステップに想定外の外乱が入って意外な事態の発展を生むという考え方である.

②本来原因と結果を結ぶシナリオは無数に考えられる.そのような無数のシナリオのいずれかが進行しているのが現実である.そこで何かがきっかけで事象の進展がドミノ倒しのように一気に拡大して事故に至るという考え方が図7に示したものである.これは①と似ているが,特定の正常シナリオからの偏移でシナリオを考えるのでなく,あらゆる可能性を想定しようとする網羅性を意識する考え方である.

③事故の背景には作業場のあり方,組織のあり方,国,文化のあり方が影響しているという考え方を,図8に示す.失敗を犯すのは現場で実際に作業している人間(これをシャ-プエンドという)としても,その裏には作業場のあり方,組織のあり方,国,文化のあり方(これをブラントエンドという)が深く絡んでいるという考え方である.

背景要因を重要視し,重層的に文化要因まで根本的に掘り下げることは,安全文化醸成の面では重要な視点である.しかしどんなことも社会の責任に持っていくのは犯罪者にとって好都合な論理とも言えるし,一方では個人は社会の被害者とみるヒューマニズムな哲学だと捉えることもできる.

技術的システムの安全設計に用いるリスクアセスメントでは,作業場の条件や環境設計など具体的に安全設計により改善できる事項に原因を求めるレベルにとどめるべきで,徒らに組織的・社会的要因,さらには国民性や民族性など,文化に原因を帰着する方法は,「文化」の特性が容易に改変しがたいものであることからしても実用性,実効性の上から迂遠な方法である.

_ 3.3 リスクアセスメントの重要語

リスクアセスメントは欧米外来の方法で,その用語の意味は原点に戻って考えたほうが誤用,誤解しないと思われる.翻訳語を誤解しないためにも英語の専門書を読むときの英語との対比を参考文献6)から引用して,表2に列挙する.  

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表2 リスクアセスメントの重要語の日英対比

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