シンビオ社会研究会 原子力WEB教材


教材(1)/4.「学習する組織」によるリスクマネージメント のバックアップ(No.96)


_ 教材(1)社会の安心を希求する技術安全システム構成の道

~Safety-critical system の学習する組織による安全文化醸成~

_ 4.「学習する組織」によるリスクマネージメント

 そこで誰がどのような方針で,どのようにリスク制御するかを考えてみましょう.その答えへのヒントが「学習する組織によるリスクマネージメント」です。ここでは制御ではなくマネージメントという用語を用いました.

 最近の企業経営論では,1991年ピーター・センゲによる「組織学習」[1]の提唱以来,「学習する組織への変容」が流行のキーワードになっています[2].そして企業活動のリスクマネージメントでも既に「学習する組織への変容」が推奨されています[3].これら企業経営論の示唆するところの,「学習する組織による変化する経営環境へのリスクマネージメント」の要点は図3のようにまとめられます.以下,そのポイントを紹介します.

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図3 学習する組織による変化する経営環境へのリスクマネージメント

_ 4.1 企業活動を取り巻くリスクとリスクマネージメント

 高度に複雑化した現代社会では,激変する経営環境に対処する企業活動のリスク・マネージメントが求められています.その対象には,投資の失敗,人材流出などの予見できる経営上のリスク(利益も損失ももたらしうるビジネスリスク)と,自然災害,事故,労災のような予見不可能なリスク(一方的に損失のみをもたらす純粋リスク)があり,これらすべてのリスク(損失や危険の発生する可能性)を避けるために,雇用・人材活用,生産・販売・競争戦略,財務・税務戦略,情報・システム管理等,業務全体のあり方を向上しなければならない、とされています.

_ 4.2 変化する経営環境に即応する経営改革

 企業は,①豊かな社会への貢献,②ステークホールダ(利害関係者)との共生,③環境保全,④情報公開,という4つのグローバル化した行動規範に則し,不断に顧客価値の創造(顧客を満足させる製品・サービスの提供)を行うため,総合的品質管理(TQM)を中心とした経営品質の全体的向上を図るための迅速な経営改革が求められています.そこでは,従来の経営の3要素であるヒト・モノ・カネに加え,情報・トキ・企業文化を加えた6つの経営資源の適正配分が求められます.トキとは経営資源投入のタイミング,経営戦略実行の速さ,市場の状況や成熟度,経営環境への適応度,企業体制の良し悪しなどを含み,トキに対するリスクの大きさは経営環境の変化が大きいほど大きいのです.

_ 4.3 組織のヒューマンファクター:経営改革への障害

 ここでトキのリスクに対する経営改革の障害は,組織のヒューマンファクターです.それには①個人の障壁,②組織の障壁,③企業文化の障壁,④外部環境の障壁,の4つの障壁があります.  個人の障壁とは,変革に対する不安感,経験や慣れによる現状への安住,現状の権限・地位への執着,変革に対応できる技能の不足,技能習得に対する不安感,参加していないことに対する不満感,です.  組織の障害とは,経営ビジョン・方針の欠如,新たな経営環境に合うリーダーシップの不在,縦割り組織の壁,旧い経営環境での規則の残存,不的確なシステム・仕組み,官僚化,です.  企業文化の障壁とは,横並び思考,イノベーション志向の欠如,永い伝統や過去の成功・失敗体験の呪縛,自己過信,情報の個人的囲い込み,学習環境の欠如,減点主義,です.  外部環境の障壁とは,各種の規制,予想以上に早い環境変化,資金調達の難しさ,ステークホルダーの要求,です.

_ 4.4 学習する組織への変革

 ここで考えるべきは、人は「変化」を拒むのでなく,「変化させられる」のを拒むという、人間の性(さが)です.人々が自ら進んで変革する意識を共有するには,①システム思考,②チーム学習,③メンタルモデルの変容,④ビジョンの共有,⑤自己実現,の5つを要素とする「学習する組織」への変容が求められます.

 ここでは,公共性が高く,事故や災害発生時の社会的影響の大きいSafety-critical systemを対象にします。ですから,企業のリスクマネージメントの対象は,火災・爆発事故,放射能放出や環境汚染物質流出,脱線・衝突事故,墜落事故等々,一方的に損失のみをもたらす純粋リスクになります.

 またSafety-critical systemは公共性が高い反面,地域住民,報道,規制当局等,企業と社会との関係が大変難しい分野を多く含んでいます.そこで、図3の周辺には社会との関係でとくに代表的な4つのキーワード(製造物責任法,CSR, 予防原則,内部告発保護法)を示しました.

 最近,製造物責任法およびCSR(法令順守)により,企業活動の社会的責任の対象,範囲などがグローバルスタンダード化し急速に拡大しています.その中で「安全,安心の確保」の範囲が,最近の欧米流の「製品の品質保証」を基礎づける「顧客満足」という明示的でない基準で語られています.[4]これは簡単にいえば、「安全かどうかは売り手でなく買い手が決める」ことになり,買い手に有利な基準です.さらにEUでとくにドイツを中心にして環境倫理のイデオロギとして提唱されている「予防原則」は,「安全,安心の確保」のためにはたとえ軽微でも将来起こりうる被害を考慮に入れて負の要因を除去すべきである,負の要因が現実となる恐れのある技術の行使はすべて差し控えなければならない、という考え方になります.[5]この原則を厳格に適用すれば技術の負の要因をすべて除去することは原理的に不可能であり,科学技術の行使は一切不可能になります.ドイツでは原子力発電を廃絶する方向に国の政策が進んでいますが、政権与党に「予防原則」をもとに原子力発電を否定する環境保護運動を進める「緑の党」の影響が考えられます。

 一方,企業の内部に目を向けると,企業内部で行われている不正を外部に報じる内部告発者の,公共的役割を認める内部告発保護法も施行されました.企業の事業のあり方について,企業の社会的責任についての倫理意識から企業内部の従業員からの告発行動も社会的に容認されるようになってきているのです.

 こういった社会的動向の中で,Safety-critical systemのリスク概念に基づいた「社会の安心を希求する技術安全システム」には,その従事者組織が高い使命感をもった「学習する組織」へ変容することが重要な要件と考えられるようになってきました.欧米では原子力など高危険性産業への「学習する組織」を目指す研究プロジェクトが取り組まれました[6],[7].

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_ コメント


  • いいですね -- zhang? 2009-05-07 (木) 16:21:35
  • これはよいですね -- 伊藤京子? 2009-04-30 (木) 16:59:42
 


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