シンビオ社会研究会 原子力WEB教材


教材(2)/4.事故調査とリスクアセスメントの違い のバックアップ(No.84)


_ 教材(2)リスクとリスクアセスメントの基本的な考え方

 

_ 4.事故調査とリスクアセスメントの違い

事故調査とは,すでに起こった災害を徹底的に調査して再発防止の対策に生かすことである.一方,リスクアセスメントは,再発防止のみならず未然防止も視野に入れて,まだ起こっていない災害までも予測しようとするものである.

ここでは両者の違いを述べるとともに,リスクアセスメントという欧米からの外来手法の国内適用における文化的要因を述べる.

_ 4.1 事故調査

事故調査は,それを誰がするのか,災害を起こした組織内でするのか,国などの公的規制機関がするのか,また学会等の第3者がするのか,で大分異なるようである.ここではまず事故を起こした組織内で事故調査をする場合を中心に考える.

実際に生じた災害結果への対策は,誰しも反省し,再発防止に必要な経費を惜しみたいとは思っていない.しかし結果は現象に過ぎず,また多くの場合,結果は原因ではありえない.結果のみへの対応は,根本的是正や予防処置に繋がらない.さらに往々にして根本原因にはあまり触れたがらず,ヒューマンエラーという都合の良い言葉をたくみに利用して原因を人の責任にすりかえられる.再発防止対策では,人の意識改善,教育訓練の強化,罰則強化などで対応しようとする.国際規格では,人の訓練および経験を機械の本質的安全設計や安全防護手段の実施によるリスク低減処置の代用にしてはならないとしている.

一方,とくに国などの公的機関による事故調査の場合には,警察・検察による刑事訴追に繋がるので,厳密な立証を伴うため,立証できない事故調査結果は公開が抑えられる.また刑事訴追以外に,規制当局による行政処分や再発防止策として法的規制の強化がよく付随する.

最後に学会等の第3者による事故調査については,科学技術のもたらす災害の社会的影響の重要性が増すにつれ,最近その取り組み事例が目立つようになってきた.学会等の第3者による事故調査は,従来からの市民団体の社会運動の一環として“告発性”を前提とする調査活動とは異なって学会の専門性をバックに第3者的立場からの調査活動であり,組織内の事故調査や公的機関による強制的調査を補完するものとして社会活動としては公益的意義が期待される.

_ 4.2 リスクアセスメントへの組織内の壁

リスクアセスメントとは,まだ起こっていない「恐ろしいこと,触れたくないこと」を敢えて指摘するという側面が付きまとう.したがってその組織内では誰もがその仮説をまず疑い,信じたくないと思い,その予測の現実性を認めた場合でもなおかつ経費を掛けたくないと思う.向殿はその著で,リスクアセスメントの実施への組織内の3つの壁を指摘している.6)以下,リスクアセスメントへの壁,その具体的反応およびその説得策について述べる.

(1)リスクアセスメントへの3つの壁
①リスクは主観的予測,仮説でしかない.また最悪事態を想定している
②リスクは個々のシステムや設備の潜在状態に過ぎずまだ顕在化していない
③リスクは潜在していても現実には作業は表面上無事に遂行されている

(2)3つの壁の具体的反応
①仮説の可能性について主観的でなく納得できる説明をせよ.

②これまで起こっていないから大丈夫だ.そんな最悪事態は考え過ぎだ

③作業・工程の変更に時間が掛かる.会社の業績が先決だ

(3)3つの壁反応への説得策
このような状況下で,多数の積極的賛成を得るには,単なる主観的思い付きや勘によらないで,根本原因と効果的対策を的確に示さなければならないとして,リスクアセスメントのあり方について,向殿は,以下のように提起している.6)
①論理的な帰結として誰もが合理的に納得できるような,論理的,体系的なアセスメント手法の確立
②現在までの災害情報,ヒヤリハットなどのデータの蓄積と解析による予測の現実性,妥当性の裏づけ
③トップの明確なコミットメントと許容可能なリスクの明確化,全員参加,コミュニケーション,コーポレーションによる安全風土の醸成,社会的責任の認識

_ 4.3 日本と欧米の安全に対する考え方の違い

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表3 日本と欧米の安全に対する考え方の違い

向殿は,表3のように日本と欧米の安全に対する考え方を対比し,以下のように指摘している.6)

①日本では,絶対安全の理想を求めている.その結果,些細な怪我から重大な怪我まで一切発生させてはならないし,すべての安全方策を実施すべしとなる.

②日本は,信頼性技術と人の教育・訓練に依存した安全の推進に重きをおく.その結果,災害の度数率は低いが強度率は高い.

③欧米では,危害をすべてなくすことはできないが,重大な災害は決して起してはならないとし,許容可能なレベルに達していないリスクから優先的に対策を実施する.

④欧米では「人はミスを犯すし,人のミスのほうが機械故障よりもはるかに可能性が高いので,事故防止には可能な限り人に依存しない.また機械でもいずれは故障することを前提に安全性を立証できる技術を開発し,実施する.その結果,日本に比較して強度率が低い.

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