シンビオ社会研究会 原子力WEB教材


教材(2)/5.リスクアセスメントと学習する組織 のバックアップ(No.2)


_ 教材(2)リスクとリスクアセスメントの基本的な考え方

 

_ 5.リスクアセスメントと学習する組織

以上のように考えると,我が国ではその文化的背景により,欧米流の合理的なリスクアセスメントをそのまま適用しても,なかなか根付きにくいように思われる.そこで本節では,次に日本発祥の学習活動から,自然に欧米流のリスクアセスメント活動が始まるアプローチを紹介することとしたい.

_ 5.1 失敗学とは

「失敗学」とは,文字通り「失敗に学ぶ」である.失敗学会の発足者である畑村の命名である.この学会では産業災害の実例を収集し,失敗知識の3つの曼荼羅という独特の形式で表現して「失敗知識データベース」をインタネット公開している.8)失敗学では,産業災害はすべてヒューマンエラーだとして,その原因,行動,結果について,真言密教の曼荼羅になぞらえた分類を図示する.9)なお,失敗曼荼羅というが,とくにこれを壁に掛けて瞑想し修行すれば悟りに到るものではない.通常の表形式にすれは 表1-4(a),(b)(c)になる.要するに原因(a),行動(b)および結果(c)においていずれも3層の階層構造に分類したものである.それぞれの失敗事例で,(a)表の項目のいずれかかが原因で,人の行動としては(b)表のいずれかが該当して,結果としては(b)表のいずれかがもたらされた,という形で知識として集積し,これをもとに災害を防止するための教訓を引き出す,というものである.とくに起こった失敗事例の分析には,3現(現地,現物,現人)主義で当該学会員が災害後の早めに出前で現場に赴き,第3者の立場で失敗事例を分析し,分類して失敗知識データベースに登録し公開する,という社会貢献活動であるのが特徴である.またこの活動で3現主義が活かされるためには,事業組織そのものが学会という第3者との協同の価値を認めて協力することが活動の成否を握っている.

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表4(a) 失敗原因の分類
 
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表4(b) 失敗行動の分類
 
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表4(c) 失敗結果の分類
 

_ 2.2 ハザードとリスクの違い

図5

リスクアセスメントの用語の「ハザード」と「リスク」の意味の違いについて,図1-5を用いて説明する.ポリ塩化ビフェニールは工業化学で大量使用される化学原料であるが,これが人体の皮膚にかかると炎症を起こす危険化学物質である.図1-5ではこのポリ塩化ビフェニール入り密閉タンクをハザードとしている.ポリ塩化ビフェニールは危険源であるがタンクが健全である限り,人に危険な状態にはならない.しかしタンクがひび割れするとそこからポリ塩化ビフェニールが洩れ出ると危険事象であり,人がタンクのそばにいればその人は災害に遭遇する.これがリスクである.

ハザードがリスクを生み,災害として現実化するまでのシナリオにはどのようなものが考えられるのか? これ自体はリスク分析で扱う大きな仕事である.ハザードからリスクを考え,災害に到る様々なシナリオを考えることを「事故のモデル」と称している.事故のシナリオをできるだけ洩れなく検討することはリスク分析で必須の大きな作業である.

_ 2.3 科学的用語としてのリスクへの誤解と誤用

科学的用語としてのリスクは,要するに「危害の発生しうる確率およびその危害の酷さの組み合わせ」である.また,その定義からリスクは社会統計のような現実の実績値ではなく,本来は将来的な予測値である.しかし社会的にはリスクに対してさまざまな誤解,誤用が見られる.これらの実例を以下に列挙する.

①社会統計の数値と予測値のリスクとを意識的ないし無意識的に混用する.自動車事故の死亡統計に,原子力PRAの結果を比較して原発は自動車より安全という場合である.即死者数の推定で関心のある災害のリスクを小さく見せる効果はあるだろうが,原子力PRAで予測している原発災害の死亡者数は,本来,自動車事故での死亡者数統計のような社会統計ではない.

②用語の定義や,問題の仮定のとり方で誤解を与える.用語の定義ではハザードとリスクとを混同することが相当する.聞き手にリスク値を現実に発生する確率と誤解させるのは,①と同様である.また,リスクアセスメントといいながら都合の悪いシナリオを評価することを避けることもありうるので,リスク算定におけるシナリオの立て方,網羅性に注意する必要がある.

③死者数の大小で比較するなどのやり方によってリスクアセスメントをすること自体に,人の不幸を軽んじるのかと社会的な反発を招く.

④受け入れ可能なリスクに合意がないと,リスクと安全は関係付けられない.

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