姫路工業大学 高度産業科学技術研究所 教授 木下
博雄 氏
電子メールから始まった新しい技術革新の流れは,デスクトップ型計算機からノートパソコンへ,そして今では個人の所有する携帯電話がその役割を担い,それを結ぶネットがすでに構築されてきている。携帯電話は,本来の電話の機能に文字や音声画像の送信機能を加え,ますますその便利さを増している。文字ならばさほどのメモリも必要としないが,映像を扱いそこそこの性能(音質・解像度)にまで高めるには,今まで以上の高速演算素子や大容量の記憶素子が必要になる。しかも,携帯サイズでそれを実現せねばならず,さらに細い線を描画する技術開発が必要となる。
半導体デバイスを製造するための加工技術(リソグラフィ)は,これまで紫外線を用いて行われてきた。LSIは従来は水銀ランプを用いて加工されていたが,時代とともに大容量化したLISは高集積化を常に要求するようになり,従来の方法では対応できなくなってきた。2006年には70nmの微細パタン形成が必要になると予想されている。このような問題に対し,露光波長の短波長化ならびに位相効果を導入したマスク技術や変形照明方式等の導入により,露光波長の1/2程までの微細化が可能になってきている。現在主流のKrFエキシマ光源(波長248nm)を用いたリソグラフィでは,0.18mmのデバイスを作製することが可能である。さらに将来的には,一世代先のArFエキシマ(193nm)光源リソグラフィによって0.13mmまでの微細化までが考えられている。
しかし,予想を遙かに超える速度で機器が発展しつつある現状を考えると,上記のようなエキシマ光源を使った加工では限界が近いと考えられる。そこで,13nmの波長を持つ極端紫外線露光技術(EUVL:
Extreme Ultra Violet Lithography)を用いたシステムが注目されている。水銀ランプやエキシマレーザー光源を用いる従来の技術では,2-30枚のレンズを用いて屈折光学系を作製し,光を収束させていた。しかし,EUVLのような短波長では吸収率が悪くなり,反射型の光学系を作製する必要性が生じた。ただし,13nmの光を反射する材料は自然界に存在しないため,人工的にそのような材料を作製する必要が生じた。このような材料は,重元素と軽元素を交互に形成した膜により実現でき,たとえばモリブデンとシリコンを交互に積層したものでは波長13nmの光で65%程度の吸収率を達成している。
図1にシステムの一例を示す。放射光で与えられたマスク上のパターンが,3回反射してウェハー上に転送されるという形になっている。このようなEUVLの基礎技術は15年前に提案したものであるが,米国では1997年から250億ドルをかけてベータツールへのシステム以降が計られている。日本では,1998年の10月より通産省のNEDOを通じて,超先端電子開発機構ASETが主体となっている。また,最近ヨーロッパでは,ASMLという半導体ステッパーを作製している会社が,Zeissとオックスフォードに協力を得て,ユークリッド計画というものが進められている。すなわち,現在ではヨーロッパ,アメリカ,日本においてEUVLに関する技術開発が進められていることになる。そしてこれらでは,新しい手法により13nmの波長が出せる光源の開発や,より吸収率の高い多層膜の開発に力が注がれている。
図1:EUVL光学系の例
このような技術開発が必要な理由であるが,すでに述べたように,モリブデンとシリコンの多層膜では65%のものを比較的簡易に達成している。しかし,それを理論値に近い70%まで引き上げるためには,各層の厚さを30〜40オングストロームでいかに均一に作製するかという点が重要となってくる。このような問題を解決するためには,基板の形状精度や加工技術の開発,また新しい計測技術の開発が必要となってくる。そこで,図2に示すようなNew
SUBARUというビームラインが設立されている。そのようにして,現在のEUVLの技術では,位相シフトマスクや近接効果補正マスクを用いることもなく,70nm以下の微細なパターン形成が可能となっている。
EUVLでは,ミラーの加工技術も重要な要素である。波長13.5nmの極端紫外線を用いた加工を行う場合,ミラーに要求される精度は0.27nmとなるが,これは非常に難しいのが現状である。ここでは,現在どの程度技術が達成できているかについて述べる。実際のミラーの加工工程としてアメリカの会社を一例に挙げると,研磨ではダイヤモンド砥石を用いてミラーをある形状精度にまで加工する。研削ではダイヤモンド砥石を用いてある形状精度にまで加工する。これを接触型のプロファイルメーターで評価した後,研磨工程に入る。研磨工程ではスモールツールと干渉系を用いて,磨いては評価,磨いては評価を繰り返す。この方法により,272mmの口径を持つミラーが0.58nmという加工精度で仕上げることも可能である。しかし,この精度ではまだ十分でないため,上記の会社では局所的にイオンビームアシストによる加工を加え,およそ0.15nmの加工精度を実現することができている。
図2:NEW SUBARUの全体図
EUVLにおいて重要なもう一つの技術は,すでに述べたような反射率の高い多層膜をいかに光学系に設けるかという点である。高い反射率を持つ多層膜はほぼ完成しているが,それらを4枚のマスクやミラーに合わせることが非常に重要である。それらは,センターウェーブレングスマッチングといい0.05nmという仕様で張り合わせる必要がある。また,3枚のミラーのそれぞれについて,光の入射角は全て場所によって異なってくる。それらの問題は,多層膜の厚さを少しずつ変えることで解決している。このような多層膜の作り方は,多層膜を作製するプラズマの入射角を変えるなり拡散方向を変えるなりして実現が可能である。このような技術を用いることで,反射の中心地のずれが±0.03nmとなり目標値をほぼ実現している。また,同時にこのようにすることで全体の反射率を非常に大きくすることが可能となった。