政策科学研究所 主席研究員 伊東 慶四郎
エネルギー利用に伴う生態系や人体への影響等が,科学技術の進歩により次第に明らかになってきている。このようなエネルギー利用に伴う環境損害,健康損害等の多くは,現在の市場価格に含まれていない外部コストと呼ばれる。
外部コストの社会的ニーズは,欧州連合を始め世界中で高まりを見せ,日本においても注目されるようになってきた。特に,グローバルなエネルギー市場の形成と技術革新,国際的な規制緩和と市場自由化,原子力発電の社会的受容性の低下等を受け,エネルギー外部性問題ということが問われるようになってきた。この外部性研究には,
@ 電力市場の自由化に向けた新たな政策枠組みの確立
A エネルギー安全保障や持続可能な発展への新たな政策枠組みの確立
の2つの課題への対応が迫られているのが現状である。
欧州委員会は,1991〜1997年の7ヵ年に渡り「ExternE」研究を行った。「ExternE」とは,「Externalities
of Energy」の略であり,第1期(1991〜1992年),第2期(1993〜1995年),第3期(1996〜1997年)の3期に分けて行われた。欧州連合では,エネルギー利用に伴う人の健康,自然生態系および人工環境に与える影響と損害が明確になる中で,そのような損害の多くが市場価格に含まれていない外部コストであることを指摘されるようになった。それにより,外部コストのエネルギー政策や社会的意思形成への適切な反映ニーズが高まりを見せ始めた。
具体的な政策ニーズには,エネルギー資源や技術,環境基準等の強化や見直し,エネルギー税や炭素税等の導入,市場競争促進政策への対応等が挙げられる。「ExternE」研究は,欧州連合設立条約,第5次環境行動計画において,明確に位置付けられている。この研究の主な目的は以下のようなものである。
・ 環境影響や社会的費用を科学的に定量化を可能にする
・ 様々な燃料サイクル増設時の外部コスト評価にこの方法論を適用し,評価レポートを対社会向けに提出していく
・ 新世代エネルギー
・経済・環境モデルへの環境的要素の組み込み
これらにより,適切な社会的意思形成を支援する。「ExternE」の基本的なステップは,1.技術のサイトの特定から負荷の定量化,
2.影響の定量化, 3.経済的価値付けという手順で行われる。以下にいくつかの例を挙げる。
@大気汚染 大気汚染関係の影響経路手法における主要なステップでは,様々な考え方が考慮されている。(S-1)
外部性の研究における大気汚染は,広域,低濃度という形の複合汚染である。(S-2)
主な大気汚染物質の反応・変相モデル。(S-3)
A放射性物質 放射性物質の考慮には,線量応答関数を用いる。(S-4)
また,影響解析に適用された解析モデルや手法,損害経済的価値付け手法について,適応例を挙げる。表1には,Extern Eにおける発電用燃料サイクルの損害試算結果を示し,表2は各国の電力システム全体における外部(損害)コスト集計を示す。
表1:Extern Eにおける発電用燃料サイクルの損害試算結果
表2:各国の電力システム全体における外部(損害)コスト集計
外部性研究の適用分野としては,社会的意思形成の支援分野,様々な技術の社会的選択過程における環境的配慮の組み込みや電力市場の自由化分野,各発電システムの外部費用の内部化により電源間競争の公正性を担保すべき分野,経済的手段の導入支援分野,大気汚染物質や温室効果ガスの排出低減に向けた環境税や排出権取引等の導入支援分野,政策評価分野,環境・安全規制やエネルギーセキュリティ政策に関する費用便益分析作業の支援分野,異時点間外部性分野,気候変動リスク低減,原子力B.E.の社会的受容性の向上支援,持続可能なエネルギー利用の実現支援分野等をあげることができる。
これらの外部性研究を推進する上での課題の代表的なものとしては
@ 持続可能な発展に向けた外部性概念枠組みの再定義
A 環境外部費用計測上の重点研究開発課題
B 産業界,学会及び政府の相補的な研究推進枠組みの確立
等が挙げることができ,これらを明確化していくことが特に重要といえる。