東北大学大学院工学研究科 助教授 中田 俊彦 氏
研究で用いたエネルギー・経済モデルについて説明する。また,いくつかの想定したシナリオにおいて,モデルを用いたシミュレーション結果を報告する。
エネルギーには常に価格があることを考慮し,マーケットを取り入れたモデルを研究に取り入れた。実際にマーケットでの取引は,需要と供給のバランスが保ったところで行われる。モデルでは数値解析においてある点を仮定してぶつかったところを交差しながらバランスが保たれる均衡点を得る(図1)。
制約条件として,CO2の排出量,資源の埋蔵量・利用量などを数値化してモデルに組み込んでいる。なお,モデルの構成要素は図2に示す。
図1:需要・供給曲線上での収束過程
図2:モデルの構成要素
図3:日本向けに改良したモデル系統図
本モデルはアメリカで開発されたものだが,日本向けに改良したモデルの系統図は図3に示すようなものになる。上部が需要サイド,産業用,商業用,居住用,運輸用である。下部が供給側,化石燃料の石油,ガス,石炭,主に電力用の原子力,水力,再生可能エネルギーである。また,この図ではお互いに関係しているものは線で結ばれているが,この線は電車の線路のようなものである。例えば電車では,JRしかない場合とJRが阪急や京阪と競合している場合を比べると,競合がある場合には値段が下がり,それによって需要が増加する,というような経済の好循環が起こる。この相互関係を系統図の線で示していることになる。
次に実際のシミュレーション方法を示す。このモデルは需要誘引型であり,初期値としてある需要を定め,シミュレーションを開始する。このとき,モデル中のマーケットにおいて需要側と供給側のお互いの意志がかなう点で取引がなされる。これはあらゆる燃料に対して同時に行われる。
燃料の需要予測に関するシミュレーションは以下の4つのシナリオで行った。
@ Reference case
A Btu tax case
B Hybrid vehicles case
C Hybrid vehicles and Btu tax case
@はハイブリッド自動車もエネルギー税もない場合である。ここでのエネルギー税とは,化石燃料のエネルギー単位に比例する税である。Aはエネルギー税がある場合,Bはハイブリッド車がある場合,Cはハイブリッド車もエネルギー税もある場合である。
図4はBの場合における旅客部門の結果である。ハイブリッド車の占める割合が徐々に増えている。図5はCの場合における旅客部門の結果である。Bの場合よりもさらにハイブリッド車へのシフトが進んでいる。図6は2040年における4つのシナリオそれぞれの総エネルギー消費量である。どのシナリオにおいても石油の割合が大きく,石油への依存は大きく違わない。ただし,ハイブリッド車がある場合にはない場合に比べて若干石油の消費が減る。また,エネルギー税のある場合には,再生可能エネルギーが入ってくる。
図4:旅客部門 (BHybrid vehicles case) |
図5:旅客部門 (CHybrid vehicles and Btu tax case) |
図6:4つのシナリオにおける総エネルギー消費量(2040年)
次に,電力自由化に関するシミュレーション結果である。以下の3つのシナリオでシミュレーションを行った。
@ Reference case
A Deregulation case
B Deregulation and Carbon tax case
@は原子力のみに規制をかけている場合である。国の強い政策により,原子力発電所が将来的に10基程度増加するとし,その後ほぼ一定値になるとしている。Aは@の原子力の規制をなくした場合である。BはAに炭素税を加えた場合である。炭素税は化石燃料における炭素の含有率により,炭素の多いものほど税率が高くなるとしている。
<@Reference caseの結果>
<ADeregulation caseの結果>
<BDeregulation and Carbon tax caseの結果>
以上の3つのシナリオから日本全体での一次エネルギーバランスの将来予測を行うと,以下のようになると考えられる。