都市居住とIT企業オフィス立地によるまちづくり  
―ソフト情報産業都市のための土地利用のあり方―


関西学院大学 総合政策学部 教授 加藤 晃規 氏


この5年間の間に、市町村を移動した人々は減少し続けており、これは、ある意味で日本が停滞化社会へ向かいつつあることを裏付ける指標である。過去25年間について、この人口移動を三大都市圏についてみると、東京圏が一貫して転入超過、名古屋圏がほぼ横ばいであるのに対し、大阪圏のみが一貫して転出超過であった。

また、都道府県別にこの人口の増減を概観すると、人口減の府県がとくに西日本に集中しており、他に東北北部や北海道それに北陸の道府県に顕著である。ここに首都圏の人口一極集中が指摘できる。21世紀末には急激な人口減が大都市を襲うことが予想されるが、その過程で、各都市は人口の社会増を如何に確保するかが主要な課題にならざるを得ない。とりわけ一貫して社会減を続ける大阪大都市圏はこの社会減対策が緊急の課題となっていると思われる。

社会増を続ける東京圏の業務オフィスの立地の動向をみると、東京都心ではこの数年間に大規模なオフィス床の供給が始まり、そのなかで外資系企業やIT企業のような新ジャンルの企業が都心の業務集積の様相を変えつつある。企業オフィスの選定要因、立地希望エリアの調査の結果、次のような特徴が挙げられた。

上場・店頭企業では賃料、立地条件などすべての項目をバランスよく満たすことが重要視され、東京駅を中心とした成熟したオフィスエリア、もしくは新しく成長していくであろう新宿、渋谷エリアが立地場所に選択されやすい。

これに対し、IT企業では賃料が安いことが重要視され、インタラクティブ(双方向性)や情報発信性をイメージさせてくれる「グレーター渋谷」―渋谷、恵比寿、新宿、青山、西新宿―が立地場所に選択されやすい。

IT企業は自社オフィスの立地条件について、賃料が経済的であること、取引先が周辺にあること、人材確保に有利なこと、自宅に近いことなどを重要視すると言われる。総じて、IT企業は業務、商業、住居の諸機能の共存するエリアへの指向が強い。この点が、オールドエコノミーにはみられないIT企業独特の新しい立地条件であり、将来の都心業務集積を予想するうえで示唆深い。


一方、社会減を続ける大阪圏についてみると、全国シェアの低下や最悪の失業率に象徴される関西経済のなかで、新大阪・江坂地区で事業所進出が比較的活発である。新大阪・江坂地区はもともと卸・小売・飲食店業やサービス業の集積が強いエリアであったが、そこに、運輸・通信業、金融・保険業、サービス業の事業所増加が起こっている。それらの企業規模は、大半が中小企業規模で、企業活動の現場的色彩が濃い。

さらに、現事業所数の集積と新規割合の事業所がともに高い業種を小分類で挙げてみると、対事業所専門サービス、情報サービス・調査・広告となり、次いで、電気機械や一般機械の製造・卸、社会サービスの教育などが挙げられる。このような事業所拡大の要因として、交通の利便性とそれに加えて賃料が比較的安いことが挙げられる。


IT企業の業務内容は、半導体技術などのハード情報産業系からネットビジネスなどのソフト情報作業系まで幅広い。その先端情報はアメリカから東京へ、東京から地方へ流れるといわれる。東京都内のIT企業の業務内容はWeb製作、システム構築といった対事業所サービスが主流である。

大手コンピュータメーカは東京に集中しており、そこに他企業の情報化業務が発注されているのが現状で、IT関連企業も東京に集積せざるを得ない。大阪圏の新大阪・江坂地区の企業は東京から間接的、下請け的に業務を受注している可能性が高い。

しかし、IT企業の業務内容は今後、ネット利用のビジネスへとシフトし、不特定多数の企業間や消費者に直結したオープンネットワークシステムが前提になる。このオープンネットワークシステムのもとで、ネットビジネスに対応した情報サービス産業の集積はどこでも可能であると思われる。

小長谷一之氏は大阪におけるソフト情報産業の集積可能地として、新大阪地域、南森町・扇町地域、南船場・堀江地域、肥後橋・四ツ橋地域、そして谷町地域の5地区を挙げている。この選択基準は

 @都心の業務中心地と商業中心地の狭間で賃料が比較的安い
 A若者・芸術家の街である
 B低利用不動産が存在する
 CITのルーツ産業(印刷、デザインなど)が存在する

のいずれかにを持ち合わせているかである。

 
2,000年の人口移動では、大阪大都市圏は社会減であったが、大阪市は実は社会増であった。これには、地価の下落と積極的な都心居住推進政策が関係していると思われる。大阪市内では、マンションの供給戸数が急増しており、これに反して、分譲マンションの平均価格は下落しつづけてきた。この供給戸数の増加及び価格の下落が、そのまま人口の社会増に繋がった。

大阪で今後、IT産業が育ってくるとすれば、こうした都市居住との兼ね合いの上で進められる可能性は高い。いわゆるSOHO(スモールオフィス、ホームオフィス)形態の企業集積の可能性が高いと考えられ、SOHOの供給と同時に都市居住のしやすい都市整備を進める政策が重要であると考えられる。そうした意味で、新大阪・江坂地区、南森町・扇町地域、南船場・堀江地域、肥後橋・四ツ橋地域、そして谷町地域などの動向を注目する必要がある。

 SOHOの需要や過去の事例を分析すると、SOHO供給にあたっては、以下の5点が重要である。

  1. 立地性(創造性を高める刺激性が高い、官庁の支援が受けやすい、賃貸料が安価である、フェイストゥフェイスの情報交換が可能である)
  2. 情報スペック
  3. 需要の絞込み(クリエイターか、サービスか、コンサルティング系か)
  4. コラボレーションしやすい設備もしくは環境(SOHOのある程度の集積)
  5. SOHO企業が成長したときの受皿となる通信インフラのしっかりしたオフィススペースの供給


こうした都市型SOHOの出現がIT関連企業の苗床となり、大阪が情報産業都市として成功していくためにも、大阪は、学び・遊び・働き・憩う魅力のある都市として整備していく必要があると思われる。


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