京都大学大学院エネルギー科学研究科 教授 笠原 三紀夫 先生
1.エネルギー利用の高効率化と環境影響低減化
近年、地球規模のエネルギー・環境問題が深刻化しており、1997年の地球温暖化防止京都会議において二酸化炭素を含めた温室効果ガスの削減目標が設定されるなど、世界各国で様々な取り組みがなされている。このような背景のもと、わが国でも持続可能な循環型社会の形成という目標に向けて未来開拓学術研究推進事業と銘打って1997年10月から2002年3月まで5年にわたって研究が進められた。この事業では大阪大学と京都大学が共同で研究を進め、エネルギー利用の高効率化を目的とする「総合エネルギーサービスシステム」とエネルギー利用に伴う環境影響の低減化を目的とする「総合リサイクルシステム」を提唱した。当講演では京都大学で研究されていた「総合リサイクルシステム」について発表する。
当研究では、総合リサイクルシステムを構想し、物質リサイクルシステム開発と評価、バイオマス利用技術の高度化という要素技術の開発を行い、次にそれらを用いた場合のエネルギー利用に伴う環境影響と環境負荷の評価を行った。それらの結果から総合リサイクルシステムを評価し、コンピュータ支援のもとエネルギー削減、環境負荷低減を目指した総合リサイクルシステムの提示を行った。
2.総合リサイクルシステム構想
総合リサイクルシステムは、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会から脱却し、資源枯渇を防ぎ、環境に優しい循環型社会を目指すものであり、この研究はリサイクルを推進するための要素技術の開発を行い、それらの要素技術を含む、
(1)金属材料、バイオマス、プラスチック等のリサイクルシステムの導入
(2)新廃棄物処理・処理技術の導入
(3)ライフスタイルの改善
を実施した場合に、これらのリサイクルシステム(広義)がエネルギー消費、環境負荷、経済性、資源保全性に及ぼす効果・影響を個別及び、総合的に評価し、可視化手法を用いて分かり易く示すことを目的とする。
3.総合リサイクルシステム −要素技術・研究−
要素技術開発・要素研究として、物質リサイクルシステムの開発と評価、バイオマス利用技術の高度化を行い、それらを用いた場合のエネルギー利用に伴う環境影響と環境負荷評価を行った。
物質リサイクルシステムの開発では、材料のリサイクル技術の開発として水素脆性による自己粉砕鉄材料(ネジ)の開発を行い、物質リサイクルシステムの評価を行った。
バイオマス利用技術の高度化では、再生型バイオマスエネルギーの利用法の開発として超臨界水によるバイオマスの加水分解技術の開発を行い、バイオマス利用のエネルギー、環境の評価を行った。
エネルギー利用に伴う環境影響と環境負荷評価では、エネルギー利用が地球温暖化や酸性雨に及ぼすエネルギーを定量的に評価、現象を解析し、LCAによる環境評価のための基礎データの構築とエネルギー、環境、経済影響を評価した。
4.総合リサイクルシステム −システム評価−
先に述べた各要素技術・要素研究を用いて、「総合リサイクルシステム」の評価を行った。評価は京都市をモデルとした。
その結果、自己粉砕ネジを家電4品目(冷蔵庫、テレビ、洗濯機、エアコン)に使用しリサイクル化した場合、年間当たり54.3ktの二酸化炭素の削減ができることが分かった。同様に、各種リサイクル化の導入及び、一部ガス化溶鉱炉を用いた廃棄物処理・処分の改善を行えば99.0ktの二酸化炭素が、ハイバイオマスの超臨界水を用いたエタノール化による有効利用を行えば24.6ktの二酸化炭素が削減可能であることが分かった。
5.今後の課題
今後の課題としては、エネルギー削減、環境保全のための社会形成、エネルギーの有効利用のための新エネルギー、新エネルギー材料の開発、エネルギー・環境・経済性の評価等が挙げられる。
当研究は、21世紀COEプログラム「環境調和型エネルギーシステム研究教育拠点形成」や、特定領域研究(A)「東アジアにおけるエアエロゾルとその大気環境影響」へと発展していくものである。