京都大学大学院エネルギー科学研究科 教授 吉川 榮和 先生
東電不祥事問題、関電美浜事故等、最近の原子力発電ではプラント保全関係で社会的事件を生じている。この根本にはプラントの高経年化があり、そのためにはプラント機器配管系の欠陥検査技術や保修管理技術等、メンテナンス技術の高度化が要請されるが、一連のトラブルを鑑みると、技術的要因以外に、原子力の保全管理を取り巻く組織的、社会的要因の問題が大きな比重を占めている。
プラントで起こるトラブルには、組織的要因によるもの、作業の場に起因するもの、そして人によるマンエラーという三つの異なるレベルが存在している。これまでに施されてきた安全対策は、作業環境や設備面の充実が中心であったが、現実に原子力発電所のメンテナンスにおいて発生するエラーの過半数はヒューマンエラーである。つまり、今後保全高度化を実現するためには、保全におけるヒューマンファクターの重要性を認識し、ヒューマンエラーを考慮したうえで、それをカバーし包括的に事故を防ぐ機能を備えたインタフェースを構築することが求められる。組織的要因への対策についても、例えばメンテナンスエラー決定支援に用いることが可能なインデントレポートシステムなどの「事故の結果への対策」(Reactive)、および組織の工学的安全性を評価・管理するMESH(Managing
Engineering Safety Health)といった「事前のプロセスへの対策」(Proactive)の両面での対策を施すことにより、効果的な安全技術の発展が促進される。これらの対策は、安全性の向上だけにとどまらず、データの収集とその評価を行うことにより生産性・品質の向上へと繋がる技術でもある。
その一方で、科学技術システムの安全性向上のためには、「安全文化の醸成」活動が重要である。組織の安全文化には複数の発展形態があるが、安全の達成の困難さを認識しつつも常に対応策を考え、ステップを進めるよう方向性を変容させることが目的となる。具体的な例としては、複数のプラントを保守支援センターによって統括的に管理し、ネットワークを用いた情報のスムーズな伝達、運転保守機能の共有、統合的管理による人的資源の有効活用とそれに伴うコストの低減、プラント現場と中央制御室の連携を実現するオフサイト運転保守支援センターがある。この構想は、原発と運転保守支援センターおよび各システムとをネットワークで結び、システム管理の効率化を図るだけでなく、オフサイトセンターとの連携を深め、管理側と実務作業側との双方が連携して安全を実現することを目指すものである。