「ドイツの地方都市から見える「環境先進国」の強み」

講師: ドイツ在住フリージャーナリスト 高松 平蔵 氏
司会: シンビオ社会研究会主宰 京都大学 吉川 榮和 教授

最初に司会の吉川が、講師の高松氏のプロフィール紹介を行った。高松氏は、ドイツ・エアランゲン市に滞在し、文化・芸術、環境問題、経済といった諸分野を地域問題の視点から取材されている。今回のご講演は、Risk Management Institute所長のご紹介により実現した。

講演要約
 ドイツと日本の(文化)相違点を地域活動という観点からから俯瞰し,特に環境問題に対して,日本の学ぶべき点を提案する.ドイツ・エアランゲン市の環境問題への取り組みを例にとる.
 ドイツと日本は、経済大国(すなわち消費大国)という観点から見れば共通であるが、ドイツは環境負荷の低い消費大国と位置付けられる点で、日本とは異なっている.この点に関して、「自転車道整備」、「ゴミ問題」、「CO2削減への取り組み」、「行政」を例にとり,お互いの地方政治,地域活動の相違を紹介し,これからの日本の地方政治,地域活動のあり方を示唆する.

「自動車道整備」について
 
 エアランゲン市は、約25年前より、「自転車の街」を目指していることを示された。現在、自転車道は全長200Km(道路全体の約5割)整備され、市内への移動に約33%の人が自転車を利用している(2000年)。この「自転車道」整備は、市長自らがプロジェクトリーダーとなり,従来の縦割り行政の欠陥を補うプロジェクトを立ち上げ、企画から決定までを円滑に行えるシステムを構築できたことによる.自動車が近代の「より強く、より早く」のスローガンを実現したのに対し、自転車の意義は、成熟した近代の「最適性、安全性、人間本位」を実現し,人間の生活の質を高める都市インフラとして自転車道を位置付けることに成功した例として紹介した.

「ゴミ問題」について  
 エアランゲン市のゴミの状況は、90%以上が分別可能なゴミであり、この分別ゴミの割合も増加している(1989年から2000年にかけ、分別不能ゴミは約55%減少)を示された。またコンポストを設置する世帯数も増加し(94年以降530世帯増加、現在約2300世帯)、ゴミの量自体も減少していることを実データを基に紹介した.  
 エアランゲンのゴミ処理問題の特徴をまとめると,徹底した分別廃棄が各家庭で特に負荷なく行えるように,製品設計,流通システムの整備を行ったことであろう.一例にエコマーク(緑の点のマーク)を貼った製品は,分別を意識することなく,そのまま廃棄することが出来る.これは,各生活食品・用品会社が分別・廃棄を第3セクターの会社に委託し,この代金は商品対価に転嫁されている.分別ゴミ対策として有効な方法であろう.さらに、ゴミ分別に関しては、啓発活動、地域紙による啓蒙、法律の強さが社会システムに浸透し、分別が進んでいるのがエアランゲンの成功の要因であろう.

「CO2削減への取り組み」に関して  
 エアランゲン市は、シーメンスと大学の街と言われ、工場がほとんどなく、CO2排出源の約55%が一般住宅といわれる。そのため、市では一般住居からCO2排出削減の方針を打ち出した.そのおもな取り組みは、太陽光利用(発電、温水)、より厚い断熱材の使用、省エネ型ボイラーへの変更そして雨水利用を推進したことである.行政はCO2排出等の情報提供を行い,近隣都市・専門団体らとNPOを設立し,これらの活動を促進している.  

まとめ
 ドイツの強みとは、1つのコンセプトを社会や政治の中で編み上げていく力であり、また、生活と地続きである.つまりドイツでは、人間本位な思想が、一人一人の人生・生活観から、社会的基盤としての議論の基点あるいは共有概念にまで及び、また、一貫して環境・文化・福祉を捉えており、個人と社会とは、NPO議会などを通じた対話空間(地方自治)が確立されている点である.日本では共通の認識に立って行われる「対話空間」の確立を先ず行う努力を勧めたい.環境問題について,速効の方法はドイツにも見当たらず,要は日々の地味な活動を続けることである.要は日本にはそれを行えるシシテムが未整備で,ドイツは確立しているということであろう.


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