原子力安全・保安院 審議官 薦田 康久 氏
わが国では現在、52基の原子力発電所が稼動しており、5基、10基程度が稼動していた時には対応できていた問題が、十分に検討・対応できなくなった。その結果として、様々な原子力安全の問題が浮上している。これらの問題は、次の4点に集約される。第1点は、規制の改革のスピードが遅かったことである。第2点は、今まで規制の合理性・有効性などを重視したが、国民のエージェントとしての説明責任を軽視していたことである。第3点は、現場の状況を十分に把握した規制の構築が不十分であったことである。第4点は、安全技術の向上の手綱を緩めてしまったことである。これは、世界の状況を常に把握し、安全技術、検査技術の改革を絶え間なく行ってこなかったことを意味する。
これらを改善するための原子力安全規制の改正では、品質保証体制、事業者検査体制の審査、申告制度の見直しの点から考える必要がある。そして事業者に対し、原子力安全規制のルール、事業者の義務の明確化と品質保証の確立を行い、ゆくゆくは監査型の検査体制へと移行するのが望ましい。このような検査体制の具体的な手法として、設備の健全性を確保する過程の確認、抜き打ち的手法の導入などの検討を行っている。
この規制改正の課題のひとつに維持基準があるが、3つのことが検討されている。1つ目は、関係省令・技術基準の改正等制度の整備。2つ目は、日本機械学会維持規格の技術的検討。原子力のように専門性を要求される場合、国がすべての技術基準を決めるのは困難である。よって民間の基準を適用することを検討するものである。これは、電気の分野ではすでに行われていることであり、大きな成果をあげている。3つ目は、国民への説明及び原子力安全委員会への報告である。現在は合理的な基準と実用上の基準が乖離しているように思われる。よってここを国民に十分に説明することが重要である。また、このような維持基準を適切に定めるためには、検査に対する信頼性の確認を行うことが必要である。検査が適正でなければ、維持基準は使えないものであるからである。
最後に、もんじゅ設置許可無効確認訴訟高裁判決について述べる。この判決でよくわからない点が2つある。まず1つ目は、新しい知見に対する考え方である。設置許可審査時には国も把握していなかった問題に対しては、国には責任があるという主旨である。2つ目は、多重防護に対する考え方である。多重に防護しても、工学的に壊れる可能性があり、防護が働かなくなる可能性が否定できないため設置を許可するのは不当であるという主旨の判決である。これは、多重防護の概念から外れており、納得できない。社会が許容できる程度に抑えるということが重要なのではないか。