原子力安全委員会 委員長 松浦 祥次郎 氏
原子力は電力の供給や放射線の利用などにより多大な恩恵をもたらす一方、危険性を潜在的に持つ。原子力安全委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画し、審議し、決定する権限を有している。
原子力安全委員会の政策は以下の4つの目標を柱としている。
[1]原子力の安全確保に関する知的基盤の整備:
原子力施設の安全確保、原子力災害対策等を実施するに当たって、必要な技術的知見・経験を獲得・蓄積するため安全目標の策定、安全研究の推進を行う。(安全目標の策定、安全研究の推進、放射線障害防止の基準に関する取組み、原子力事故故障の調査分析)
[2]原子力施設の安全確保:
我が国の多重補完的な安全確保体制の下で、原子力施設等の安全確保に万全を期する。(規制行政庁の審査の再審査(ダブルチェック)、安全審査指針類の整備、規制調査活動の実施)
[3]原子力災害対策:
原子力災害時の防災活動を迅速かつ効率的に行うための体制を整える。(原子力災害対策特別措置法に基づく緊急技術助言組織の活動、実効的な原子力防災体制の整備、防災ガイドラインの見直し、緊急被爆医療体制の整備)
[4]原子力安全問題に関する国民との対話の促進:
国民との双方向の意思疎通を通じて、原子力安全問題に関する国民との対話を促進する。(情報公開、意見公募(パブリック・コメント)、原子力安全意見・質問箱の活用、地方原子力安全シンポジウムの開催、原子力安全白書の公表)
近年、原子力安全管理分野において、より合理的で整合性の取れた安全確保の体系の構築のため、リスクに関する情報を考慮した安全目標の策定を進めている。これによって、リスク管理業務に透明性、分かりやすさを与え、効果的・効率的な規制が可能になる。また、「どのくらい安全であれば十分安全か」という観点から市民が行政に対して発言しやすくなる。そして、規制当局の意思決定を産業界に伝え、産業界に対してリスク管理の効果的実施に向けた努力を促進させる効果がある。
原子力の安全確保は原子力事業に携わる組織と個人の努力によって維持されるものであり、現場における意見交換が重要である。INSAG-12が「安全文化」のための最重要事項として指摘しているように、組織の個々の従事者の判断や行動は職場環境の影響を強く受けるため、管理者は、従事者が組織の安全施設や目標に合致して業務ができるよう奨励する責任があり、個人一人ひとりは「問い直す心;Questioning
Attitudes」を持つと同時に厳しく用心深い態度を保ち、更に他の従事者とのコミュニケーションを大切にすることが必要である。「安全」が崩壊しないためには、安全文化が表層的なものとなっていないかを見直し、強固な安全文化を意識や行動に深く根付かせること(身体化)、透明化等による社会的監視、自らの状況を常に把握し評価、学習する組織であることが必要である。