渡辺 長深 氏(三菱重工)
☆ FMSプロジェクトの概要
原子力プラントでは13ヶ月に一度定期点検が義務づけられている。プラント稼働率を高めるため30日〜100日に及ぶ定期検査の信頼性を確保しながら期間を短縮することが求められている。またプラントの高経年化と熟練技術者の減少も保全技術に注目する背景である。保守高度化技術と訓練高度化技術の高度化をはかるためFMSプロジェクトが三菱重工、三菱電機、日立、東芝4社によって進められている。具体的には、保守高度化技術では、非接触・遠隔操作型のセンサーの開発、オンラインリモートメンテナンス型制御装置の開発、インテリジェント保守管理技術の開発、訓練高度化では、保守ノウハウの体得化とプラント体感技術の開発に取り組まれている。講演では三菱重工担当の技術開発を中心に報告された。
☆ メンテナンスフリーセンサーの開発
定期検査時の校正作業を省力化するため、光干渉を用いた光ファイバ式の差圧伝送器を開発した。自己診断機能を備え、原子力発電プラントの環境下で利用可能で、かつデジタル制御装置との整合性が良いことが特徴である。再現性、直線性、温度特性、静圧特性、放射線照射特性に関し良好な性能を確認している。ドリフト等のアナログ的特性もなくメンテナンス上の労力低減が期待される。
☆ センサーの点検周期判断支援技術の開発
センサーのドリフト等に対応するためのセンサーの校正は定期検査時に労力のかかる作業であるが、最近のセンサーは性能が良くなり、あまりドリフトしなくなってきている。これに着目して、センサー毎のドリフトを継続的にモニタし、校正周期を効率的にすることを目的にシステム開発を行った。ニューラルネットワークを用いた真値推定を導入し、センサー値間の非線形関係を学習させている。また、フルスパン補償という方法でドリフトの傾向を統計的に解析して全スパンに渡る誤差の範囲を推定している。パイロットシステムを完成して実機での適用試験を予定している。
☆ 大型機器/電気設備保守作業の訓練システムの開発
実規模モックアップが用意できない大型機器のOJTによる技能伝承は困難である。そこで下部炉心構造物を吊り上げ/吊り込み作業を具体例に、大型機器保守作業の知識・技能・技術の伝承のための体感型保守訓練システムを開発した。大型機器の保守作業は複数保守員の共同作業となることが多いので、それに対応するように複数台の計算機をネットワーク接続して、複数訓練生が一緒に訓練可能なハードウエア構成としている。体感サブシステムでは対象を三次元表示し、音も含めて状況をリアルに体感できるようになっている。訓練サブシステムでは、訓練中に発生し得る保守対象物の異常な状態や訓練生による誤操作からの復旧のための異常状況対応機能等が準備されている。実際に保守センターで評価を行い、有効性を確認している。
本年度は5年間のFMSプロジェクトの最終年度で、来年度には外部評価が予定されているため、研究成果の検証評価としてコスト面での検討と現場導入に向けての信頼性/有効性の検証を進めている。