講演概要:
電力自由化や原子力への社会的受容低下の現況下、原子力発電に課せられる安全性と経済性の両立を図る道として、オフサイト運転保守センターの統一概念の基に、複数プラントの運転保守管理をネットワーク化して要員をオフサイト運転保守センターに集中することにより、省力化、知識集約化、を達成しよう、そのために必要な次世代のHMS技術を開拓しよう、という意図で取り組まれた、三菱グループと大学のHMS研究者による共同プロジェクト『原子力発電所運用高度化のための次世代ヒューマン・マシン・システムに関する技術開発』の研究成果の中から、現場作業支援に関する3つのシステムの開発成果が紹介され、今後の方向を展望した。
●配管系統隔離作業支援システムの開発 プラントの定期点検作業の際に行われる対象機器施設等をプラントの全体系統から隔離する作業(電気系統の隔離と配管系統の隔離の2種がある)を効率化するための支援システムの開発である。系統を隔離するために必要な弁操作や電気系統の遮断器の操作を誤りなく行うといってしまえば簡単だがプラントにある膨大な弁や遮断器から正しいものを見つけて正しい順番に然るべき操作を過不足なくこなしていく作業の正確な操作、その正しい記録作成の時間短縮を省力化する方法として、拡張現実感技術とRFIDを適用した作業支援用ウエアラブルデバイスの構成法を実験検証したものである。
●現場作業者の視線情報を活用した遠隔協調作業支援システムの開発 定期点検時に機器の分解、各種試験、再組み立てなどの一連の保守作業は、複数の保守員のチームで現場作業が行われるが、現場監督の監督指導下に作業員が自分の持ち場の作業を誤りなく実施するのを支援するための、協同作業支援用グループウエアの技術開発を行ったものである。具体的には新型の片目ヘッドマウントデイスプレイ(HMD)としてHMDの装着者の眼球運動をCCD撮像し画像処理で実時間で視点位置とその動きを追跡できる機能を付加したシステムを開発し、これを作業者用ウエアラブルデバイスとし、一方、現場監督にはノートパソコンないしハンドヘルドコンピュータのような可搬コンピュータを装備させて、両方を無線方式で通信できるようにしたものである。模擬実験環境で試用実験して機能を検証している。
●現場情報収集とトラブル対処支援システムの開発 現場機器にローカルな小型計算機(UCD)を設置し、相互をネットワーク接続するというプラント機器間にユビキタスコンピューテイングネットワークを想定して機器の故障診断を自律エージェントの利用で遠隔自動化するとともに、故障機器を特定後の保守作業員の検査作業についても作業員のハンドヘルドコンピュータとUCDとの無線通信で検査作業を支援しようというシステムの開発である。とくにユビキタスネットワーク上で自律動作するマルチエージェントシステムの動作方式を模擬実験環境で試験し、機能検証している。
将来展望: このプロジェクトでは、上記3つのシステムは個別システムとして独立に開発が取り組まれたが、実プラントへの導入には、サテライト運転保守センターとの連携も新たに考慮して、ユビキタスコンピューテイグ環境としてネットワーク化された各プラント設備のUCD群と、作業者支援用ウエアラブルデバイスの使用方法について具体的なイメージ作りが期待される。