--- 実施計画書 ---
公開ワークショップ「リスクとリスクコミュニケーション」
要旨
- 原子力の場合、リスクと便益が明確で、リスク評価やリスク管理の主体が電力会社と明確であるが、宇宙の場合には双方が明確でない。
- 原子力は放射能という単一ハザードに対する多重の深層防御に対してのリスク評価だが、宇宙分野では有人システムの場合ハザードが多数存在しそれに対して単一の防護や防護なしといったことで深層防御のような概念はない。一方、無人システムの場合は単一ハザードだが防御がなく何かあるとあとはすぐ最終状態となって評価が難しい。
- 要するに宇宙分野のリスク評価は原子力と比較すると技術も異なりその発展はまだこれからの領域といえる。リスクコミュニケーションの対象も、宇宙飛行士以外にはロケット落下のリスクを負う一般住民ということになるが実際には何もされていない。宇宙士の健康リスクもあろうが確率的取り扱いができるものではない。また、日本の宇宙開発は平和利用だが、とても平和利用だけで開発がうまくいくとは思えない。便益対投資のリスク評価も必要である。
7. 企画セッション2:高レベル放射性廃棄物処理処分問題のリスクコミュニケーションを考える
「高レベル放射性廃棄物(HLW)処分問題のアフェクテイブリスクコミュニケーション」グループの研究成果の紹介後に、高レベル放射性廃棄物処理事業体、電力会社および原子力のリスク認知の研究者である3人のコメンテータからは、上記グループの研究紹介とは別の観点での話題提供があった。
(1)HLW処分問題のアフェクテイブコミュニケーションへの取り組み
- 客観リスクと主観リスクの差がもたらすパーセプションギャップは、従来の刺激反応型コミュニケーションモデルでは解決できず、相互作用型コミュニケーションの方法としてポジテイブな側面だけでなくネガテイブな側面の情報も公正に伝えて共考するリスクコミュニケーションが効果的とされている。
- とはいえHLW処分問題は一般社会の認識が極めて低いので第一段階として原子力関係者側から情報を伝達することを重視した説得型コミュニケーションの実験を、最終的なインタラクテイブコミュニケーションの前段階として行った。
- HLW地層処分に詳しくないものにはメリットとリスクがアンバランスに見えると思われる。そこでインタネットの構成するサイバー空間からHLW地層処分問題の多角的な情報を収集できるようにし、この中でHLW処分に詳しい原子力関係者が加わって一般市民がBBSによってHLWのリスクコミュニケーションする試行実験を行った。
- 試作したWebシステムは、社会心理学の理論をベースに、技術の安全性、人的安全性の側面からHLW処分問題の安全性の認知を高め、かつその認知の持続を図るリスクコミュニケーションモデルの枠組みに、キャラクターエージェントによるサイバー空間のアフェクテイブなナビゲーションを組み込んだシステムである。
- 試作システムによる10日間にわたる社会実験のデータを共分散構造分析した結果、試作したWebサイトの利用によりHLW処分問題の安全性への認知が高まる効果が見られた。
(2)HLW処分事業体の取り組みについて
- わが国でHLW処分を行う事業体として「原子力発電環境整備機構(NUMO)」が設立され、HLW最終処分地の公募が開始されている。公募に応じた自治体はまだないが、応募自治体の中から概要調査地区を選定し、精密調査地区に絞ったのち最終処分地を選定するまで25年、建設に10年、操業に50年、その後閉鎖に10年で合計100年ということである。立地の選定では社会的な安心と信頼の積み上げが大事であるとの観点から、地域の長期ビジョンへの貢献を目指した地域共性型の情報活動に取り組まれている。