--- 実施計画書 ---
公開ワークショップ「リスクとリスクコミュニケーション」
要旨
平成16年1月23日に、京都市国際交流会館で行われたワークショップの概要を、当日のプログラムに沿って要点を記す。
1. 原子力のリスクコミュニケーションとその課題−プロジェクトの背景と研究課題−
- 原子力のリスクについてコミュニケーションを行う前に、原子力を行うベネフィットが何かを知っておく必要がある。原子力のベネフィットとしてエネルギー資源を殆ど海外資源に依存する我が国にとって、エネルギーセキュリテイの確保、発電技術としての経済性、そして地球温暖化ガス対策を含めた環境問題への対処、が挙げられる。
- 一方、原子力特有のリスクは言うまでもなく放射線リスクである。その観点で原子力発電事業に特有のリスク事象は、各種原子力施設からの放射線漏洩、放射能流出による人体影響/環境汚染、原子力発電所のシビアアクシデント、各種核燃施設の臨界事故、である。なお、放射線の人体影響については、不可測性の大きい環境化学物質の人体影響問題と対比すれば、「ICRP基準は極微量放射線の人体影響を過大評価しているのでないか」という論争の決着を除いては、基本的には解明済みである。このような解明済みの、放射線・放射能の人体影響に至らないための取り扱い知識が原子力関係者ばかりでなく国民一般にも普及することが、原子力の取り扱いを誤らない上で最も重要である。
- JCO事故や東電不祥事問題以来、原子力防災体制の強化や原子力の保全規制の強化が急に進展した。JCO事故を振り返って吉川 弘之 日本学術会議会長は、安全と効率の二律背反 を指摘しているが、この克服には、原子力関係者が安全文化醸成への日常的・自律的取り組みと、それを社会に伝えて、社会の安心と信頼を得ることが基本と思う。またその為の原子力と社会の間の新たな双方向のリスクコミュニケーションの創出が必要である。
- 私たちのグループでは、そのような原子力の新たなリスクコミュニケーションへの取り組みとして、益々進展する情報化社会のコミュニケーションツールであるインタネットに注目して、一つは原子力関係者間の安全文化醸成のためのコミュニケーションシステム、もう一つは高レベル放射性廃棄物処理処分問題の社会啓発のためのアフェクテイブなコミュニケーションシステム、の二つについてヒューマンインタフェース、社会心理学、マ−ケテイング手法の研究者で文理融合型のチームワークで、新たなソーシャルコミュニケーション法を創出することを目標に研究を開始した。
- わたしたちの原子力発電の「社会的リスク情報」のコミュニケーションシステムの研究では、「リスク」とは、「人々の暮らしの中で直接ないし間接的に生命・健康や生計・財産などに不安をもたらすもの」、「リスクコミュニケーション」とは、「原子力関係者が一般社会の抱くリスクイメージを理解して一般社会の目線でリスクへの対処行動に結びつけるための共考的情報交流」と定義している。
- 本年度は、それらの研究開発の方向を設定するために、原子力関係者と首都圏女性層を対象に、それぞれの原子力発電に対するリスクイメージを調べるアンケート調査を行った。その結果と詳しい分析は企画セッション1に譲る。
- 原子力発電によって生じる高レベル放射性廃棄物(HLW)の処分問題は既に世界中の原子力発電各国の現実問題である。北欧フィンランドでは既にHLW処分場の建設を国会承認しているが、我が国でもHLW処分事業を進める事業体として原子力発電環境整備機構(NUMO)が発足した。そして30−40年先には施設を建設する予定で立地地域の公募が始まっており、この立地問題が社会論争化してきている。以上のHLW事業の状況がわたしたちのグループでもHLW処分問題の社会的啓蒙のためのアフェクテイブコミュニケーションシステムの研究を取り上げた理由である。この取り組みについては、企画セッション2に譲る。
- なお、HLW処分問題のリスクコミュニケーションでは、地球温暖化ガス問題、環境化学物質問題のような他の環境問題と対比すると、とくに深地層処分したHLWの環境安全は1000年以上の長期間にわたる遠い将来世代にまでまたがる問題であり、環境倫理という面で特別の理念についての考察が必要と考えている。