公開ワークショップ「リスク評価とリスクコミュニケーション」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　要旨

２．企画セッション１：安全文化醸成への原子力組織内コミュニケーションを考える｢安全文化醸成コミュニケーション｣グループでのこれまでの研究成果の発表と、３人のコメンテータの大学での教職、原子力メーカでの設計実務、電力運転員の経験からのそれぞれのコメントを以下に要約する。
(1) ｢安全文化醸成コミュニケーション｣グループの研究成果の発表

原子力分野での安全文化、安全風土については、1986年の旧ソ連チェルノビル事故で個人や設備面だけでなく組織の要因が大事故をもたらしたとの反省から,IAEAのINSAG-4で｢安全文化｣の問題が世界的に取りざたされたが、日本では幾分他人事のようであった。しかし、1999年のJCO事故でその重要性が我が国で認識されて、原子力関係の多くの機関で、確率論的安全評価法、安全文化の指標と測定法、インタビュー調査、高信頼性組織の調査などに取り組まれている。
このような既存の研究では｢組織内の安全文化｣だけがクローズアップされているが、｢組織内の安全文化｣を｢組織外での信頼醸成｣にリンクさせる観点の取り組みがない。そこで、原子力組織の現場での安全文化醸成活動をモニタして一般社会に発信し、そのレスポンスを現場にフィードバックするような現場研究としてのリスクコミュニケーションに取り組みたい。
原子力関係者と首都圏女性層への原子力発電に対するリスク認識を質問するアンケート調査の結果、首都圏女性層では以下の傾向であった。
- 既存の全国規模社会調査と同様に、　原子力発電への不安感は根強い
- メデイア情報から事故は起こりやすいと感じている・事故による放射線影響を危惧している
- 放射性廃棄物の処理処分技術に無知・無関心ながら危惧している
- 原子力情報の一層の公開を要望している一方、原子力関係者では以下の傾向があった。
- 一般社会とは対照的に原子力事故や放射線への不安感はない
- 国の原子力開発政策を不透明と不満がある
- 原子力関係者間にストレスがあり、安全運転の維持に不安を持っている。
原子力関係者および首都圏女性層について更に数量化Ⅲ類によるクラスター分析でグルーピングするとともに、それぞれのグループについてＡＩＣによる相関分析でそのリスク認識の要因構造を導出した。その結果は、原子力については以下のようになった。

Type1：事業リスク派（158名）
- 原子力積極的推進（96%）
- 電力会社の運転管理を信頼し、安全対策に自信を持っている。
- 原子力への社会的受容悪化や不透明な国の政策を懸念している。
Type2:被曝リスク派（25名）
- 原子力積極的推進（60%）、維持・縮小（40%）
- 省エネが必要、快適すぎる暮らしは不必要とする意見が大多数。
- 安全対策を課題と考え、安全対策について知りたいと思う。