公開ワークショップ「リスク評価とリスクコミュニケーション」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　要旨

原子力分野でのコミュニケーションは、国際間を含めて産業界、学会、国では情報交流が頻繁だが市民レベルへはマスコミからの一方的情報の流れ以外には情報交流がない。しかし、原子力立地の地方自治体からは、エネルギー政策と原子力政策のギャップ、原子力政策の決定プロセスの不透明さ、核燃料サイクルのニーズの見直し、電源立地地域の将来の不透明さなどを問いだしている。国民や住民参加の開かれたコミュニケーションの場を常設し、提起された問題を議論し、一つ一つに選択肢のある回答、一人一人が受けるリスクとベネフィットを定量的に示すことが必要である。
1990年代の原子力発電所運転員は高い士気で仕事や技術に自負心を持っていたが、世間から隔離された集団であり、社会とのリスクコミュニケーションで組織が不健全にならないようにすることが重要である。
従来の確率論的安全評価を主体とするリスクコミュニケーションでは非常に小さい確率値を示しても一般の理解を越え返って不信を招きかねない。
組織から一般へのリスクコミュニケーションでは、組織の個人個人が広報マンとしての自覚を持ち、リスク対ベネフィット、コスト対ベネフィットという面で分かり易い情報開示が必要であり、そういう方向でインタネットの有効利用を考えて欲しい。
リスクコミュニケーション関連の研究で社会科学系の方法論として、数量化Ⅲ類や相関構造分析が多用されるが、ＩＴ領域の手法である｢感性の定式化｣を適用すれば解析者の主観的判断のステップを経ることなく、｢社会的感性の因果関係｣を導出できる可能性があるので、本プロジェクトで適用されてはどうか？

３．特別講演｢リスクコミュニケーションの思想と技術－原子力を中心に｣

リスクは学問分野で定義が異なる上に、その定義されたリスクと一般社会の認識に大きなギャップがある。
これまでの原子力広報では、短期的利益に特化したコミュニケーションが中心で、原子力の賛成側も反対側も自己主張をぶつけ合うだけで結果として両者の対話は成立せず不毛な議論に終始している。
リスクコミュニケーションには製品や技術の安全と無事故実績が大前提で、これが崩れているとリスクコミュニケーションを行っても徒労に帰するだけである。
それを前提としたリスクコミュニケーションは、リスクの測定、評価、マネージメントの専門家と、対話の前線にたつリスクコミュニケータのチームワークである。リスクコミュニケータには、成功する政治家のように人前でのプレゼンテーション技術が伴わなければならない。
日本では男性より女性の方がリスクに敏感なので女性のコミュニケータのほうが有効と思われる。

４．六ヶ所村原子力施設現地調査

本プロジェクトメンバーには原子力になじみのないメンバーが多いため、六ヶ所村を中心にわが国の原子燃料サイクル施設の集中立地する下北半島の原子力施設等を見学した。
第１日目は宿泊先の原燃テクノロジーセンタから六ヶ所村の原燃PRセンターを起点に核燃料再処理工場、低レベル放射性廃棄物埋設場、ガラス固化体貯蔵施設、中レベル放射性廃棄物埋設場のトンネル工事現場を見学した。
第二日目は六ヶ所村から北上して東通村で建設中のBWR発電所（東通１号機）、むつ小川原ウインドファームを見学した。